2021.6.11
カフェからデリ、雀荘まで。「友添商店」は生き生きとした街をつくろうとしたら同地域異業種展開になったらしい
噂の広まり
京都のプロや旅のプロに、街の噂や旅の好奇心をくすぐるお話を聞く連載「噂な旅通信」。
今回のお相手は、“京都をおもろくする”を掲げ、市内でまったく違う業種のお店を展開する「友添商店」の代表・友添敏之さんです。きっかけは、はじめてお話した時に友添さんからぽつりとでたこの一言「実は、京都でまだまだやりたいことがあるんですよね」。これは新たな噂の予感がする……!こうして編集部が取材を行うことになりました。
「友添商店」が現在運営する店舗は全部で4つ。「居酒屋 ここでのめ!」、「マールカフェ」、6月1日に新たに仲間入りした「マールデリ」、そして「麻雀Potti」という雀荘まで。どの店も市内中心部に位置し、それぞれ業種も違えば、店の雰囲気も違う。同じ業種で複数のお店を展開することが多い中、あらゆる業種を行う理由とは。そして気になる今後の計画も…。
Q1 そもそも同じ地域であらゆる業種の店舗を行うきっかけや理由は何だったんでしょうか。
もともとアパレルがやりたくて、開業資金を貯めるために「麻雀Potti」をひとりでつくったのが最初です。僕自身麻雀が好きで、最初は自分のための店でした。けれど、実際店を開くと常連さんができて、学生のお客さんが京都を離れてからも遊びに来てくれたり、従業員も長く働いてくれたり、どんどんいろんな人のホームのような場所になっているのを感じて。これはもはや自分のためだけのものじゃないなと思ったんです。
事業って軌道に乗ると、だいたい同じ業種で多店舗展開していくことが多いじゃないですか。雀荘の場合、店自体の数が少ないので、お客さんを集客する範囲も広いんですよね。なので京都でつくって、もう1店舗出すとしたら距離的には大阪になることが多いんです。その次は名古屋、東京という感じになるんですけど、そうなったら僕が最初の店でお世話になった常連さんや、卒業後に戻ってきた子たちとか、目の前で喜ばしたい人たちの顔がもう見えない。それぞれの店でそういう場所や関係をつくればいいのかもしれないですけど、最初の店で感じたホーム感みたいなものが薄れてしまうのではないかと思いました。じゃあ京都を離れずに何かしようと考えて、雀荘はお客さんの範囲がかぶるから出せないけど、それ以外の業態で近くに商売をつくろうと思いついたんです。
Q2 そこではじめられたのが2店舗目の「居酒屋 ここでのめ!」ですね。
そうです。お店は木屋町なんですけど、なにせはじめての業界なので飲食の知り合いなんてまったくいないですし、最初はお客さんが一人も来なかったんですよ。だけど、「麻雀Potti」のお客さんが帰りに寄ってくれたりして。徐々にお客さんも増えてきたら、逆に居酒屋に来たお客さんが「雀荘もやっているんですね」ってそっちに行ってくれたり。なんかそこをクロスオーバーするんだなと感じて、意外と理にかなっているのかもと思うようになりました。
Q3 お客さんが異業種の間をつなぐっておもしろいです。次にできたのが「マールカフェ」ですよね。
同地域異業種展開の手応えを感じたことで、5年ほど前に五条河原町に「マールカフェ」をつくりました。実はゲストハウスをはじめるつもりで物件を探していたのですが、知人から紹介してもらったところがとにかくすごくて。少し隠れ家的な立地にある趣深いビル、その最上階の8階で三面が窓になり、さらにテラスまでついていました。倉庫として使われていたことで、一般的にはあまり知られていなかったハコでしたが、ここをそのままにしておくのは街の損失とさえ思いました。
即決で借りることにしたのですが、ここはゲストハウスじゃないなと。顧客を限定してしまって一日に10~20人の方だけにしか利用してもらえないのはもったいない。地域の財産にもなり得るこのハコをできるだけ多くの人に開かれた場所にしたいという思いからカフェの出店を決めました。“地元に根付き100年続く店になる”を店舗理念に掲げているので、大きな宣伝はせずに地道な営業を続けてきました。ありがたいことに口コミやSNSで徐々に知っていただけるようになり、今は毎日笑顔の絶えない場所になっていてすごく嬉しいです。
Q4 6月1日にオープンしたばかりの4店舗目「マールデリ」についても教えてください。
デリカテッセンはもともと友人とあったらいいなという話をしていて、やりたい20店舗のうちの12か13番目くらいにあったんです。なので本当はもう少し後になる予定だったんですけど。今のこの状況でテイクアウトってもうみんな普通にする世の中になり、僕の中の出店優先順位が変わりました。それに四条東洞院の今の物件を見つけた時に、ここなら近くの大丸や八百一とかとの親和性も高い。健康的で見た目も華やかなデリカテッセンをつくるイメージが湧いたんです。「マールカフェ」のスピンオフというか、姉妹店的な立ち位置での出店を決めました。
お店としては、“健康的でお洒落な食事体験を通してお客さんの1日をちょっと特別なものにする”っていうのがやりたいことです。お惣菜を選ぶ際はスタッフがおすすめをお声掛けしたり、持ち帰って開けると色鮮やかで味も美味しい、ボックスは特注の紙製のもので手触りが良く、環境にも優しい。この選んで食べて、容器を捨てるまでの一連の流れをちょっと特別な食事体験として提供できたらと思っています。
Q5 複数の業種を展開する際、友添さんの中で何か共通するコンセプトや指標みたいなものってあるんでしょうか。
もともと「友添商店」が掲げているのが“京都をおもろくする”こと。「あったらいいな、今はないけど」というお店を京都につくっていこうと思っています。具体的には四条河原町から半径2キロ以内をひとまずの範囲とし、すべて異業種で2030年までに全20店舗の出店を目指しています。
これらの活動において、そもそも僕が大切にしているのが「センシュアス・シティ」という指標です。
Q6 「センシュアス・シティ」とはどのようなものなのでしょうか。
「センシュアス・シティ」は、LIFULL HOME’S 総研の所長である島原万丈さんという方が提唱された、街の魅力の測り方に関する指標です。よく耳にする「住みよさランキング」とかって人口一人あたりの、公園や大型小売店の広さとか病院の数といったいわば街のハード面で測ったものなんです。これに対し「センシュアス・シティ」は、人間の感情とか行動といったソフト面で街の価値を測ろうとしたもの。8つの大項目にそれぞれ4つの小項目がついた全部で32の項目をそれぞれ0〜3で評価するんですけど、おもしろいのがその内容なんです。
たとえば「通りで遊ぶ子供たちの声を聞いた」とか「遠回り、寄り道していつもは歩かない道を歩いた」、「商店街や飲食店から美味しそうな匂いが漂ってきた」、「馴染みの飲み屋で店主や常連客と盛り上がった」、「素敵な異性に見とれた」、「空気が美味しくて深呼吸した」とか、そういう内容なんですよ。たしかに、公園や大きいお店が多かったりしたら住みやすいのかもしれないけど、なんか違うなと。僕はそういうのじゃなくて、「センシュアス・シティ」で示されているような人間の行動が生き生きとした街に住みたいなと思いました。僕の活動を通じて、すでに魅力的な京都の街をより“おもろく”したいなと思っています。
Sensuous City[官能都市]【LIFULL HOME’S 総研】
Q7 たしかにいいなと思う街の様子が言語化されていますね。では友添さんの今後の計画を教えてください。
いっぱいあるなぁ。お話した通り、生き生きとした街をつくるためにも異なる業種で20店舗つくることがひとまずの目標で、現在4店舗。今後の計画だと、まず小さい映画館をつくりたいんですよね。本当に普通の部屋ほどの広さで、ソファしかなくて、そういう映画室が2室くらいあるような。そこで飲んだり食べたりしながら映画を観れる空間をつくりたいです。
あとは、劇場もしたいと思っています。やっぱり京都って学生が多くて、劇団とかアート活動をしている人も多いですよね。ただ、みんなお金もないし高いところって無理なので、安くていい場所を提供したい。普通は商売ってトントンか利益が出ないとできないですが、同地域で異業種展開の場合、そこ単体が赤字でも「友添商店」全体のファンやファミリーになってもらえたら他の店舗で採算を合わせることもできるし、一般的には難しいビジネスモデルも実現可能だと思っています。
まだまだありますよ(笑)。あとは、プールと職業を教える塾ですね。プールは京都って街中に意外とないんですよ。ジムとかじゃなくて本当に市民プールのような、30分だけザブッと泳いで帰るみたいなのをつくりたいです。職業を教える塾っていうのは、やっぱり職業って知っているか知らないかだけで、可能性の幅が大きく変わると思うんです。僕自身も高校3年生の時に、「職業辞典300」みたいな本を読むことがあって、建築士に憧れたことがあったんです。ただ、すでに進路を決めてしまっていたので結局あきらめちゃったんですけど、もっと早く知っていたら色々変わっていたのかもしれないと思ったんです。いろんな職業を知ることによって自分の選べる道の多さを知れて、そのために必要なことがなんなのかを小学校の頃くらいから学べる塾があったらいいなと思うんですよね。そうしたらみんな納得感をもって仕事を選ぶから、もっと頑張れたり自分の仕事に誇りを持てたりするような気がするんです。
Q8 最後に、京都で最近、気になる噂ってありますか。
僕もちょっと前までコアメンバーとして関わっていたんですけど、河原町五条の高瀬川沿いに「灯商店」というお店ができていて、そこの活動がおもしろいらしい。
店があるのが菊浜学区という学区で、かつて五條楽園とも呼ばれていた地域なんですけど、現在、このエリアには高齢者の方が多い上、独居の方も増えているようで。新しい居住者もなかなか増えないし、空き家問題も深刻化してきているんです。「灯商店」はこの街のお困りごとを解決し、盛り上げようと立ち上がった商店で、日用品や食品の販売と、街のハブになるべく立ち飲みなんかもやっています。いまはまだ実装できていないのですが、京都大学の学生さんにつくってもらった専用のリヤカーもあり、ゆくゆくは歩いて来られない方のために行商も行うようですよ。
<プロフィール>
友添敏之(ともぞえ・としゆき)
“京都をおもろくする”を掲げる株式会社友添商店の代表取締役。麻雀店、居酒屋、カフェ、デリカテッセンの運営を行うとともに、プロ雀士の顔ももつ。
・HP:友添商店
企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
写真提供(敬称略):友添敏之