2021.10.15
レンタサイクル&カフェ THE GOOD DAY VELO店主いわく、京都はサイクリングが特別楽しい街らしい
噂の広まり
京都のプロや旅のプロに、街の噂や旅の好奇心をくすぐるお話を聞く連載「噂な旅通信」。
今回お話を伺ったのは、烏丸御池にレンタサイクルとコーヒースタンドがひとつになったお店「THE GOOD DAY VELO BIKES & COFFEE KYOTO」を構える、石原直樹さんです。
京都は“自転車の街”と言っても過言ではありません。碁盤の目になっている道の明快さに、自然を近くに感じられる心地良さ。おまけに街がコンパクトであるがゆえ、市民のあいだでは「京都は自転車があればどこへでも行けるよね」なんていう会話も。
特に暑さも和らぐこれからの季節は、まさに自転車日和。秋風を感じながら鴨川沿いを走ったり、車や電車では行きづらいところまで足を伸ばしてみたり。住民に溶け込んで路地や街並みをあてもなく散策すれば、よりローカルな目線で京都の空気を感じられるはずです。
さて、レンタサイクルといえば、自転車を借りられる場所というイメージですが、THE GOOD DAY VELOは、それだけではありません。コーヒースタンドを併設し、観光客や地元の人がホッと一息つける街の拠点として利用されています。ご自身も無類の旅好きという石原さんに、お店の活動はもちろん、自転車での京都のローカルなめぐり方について伺いました。石原さんおすすめのサイクリングコースも必見です。
Q1 レンタサイクル+カフェの業態をはじめたきっかけを教えてください。
元々、コーヒー業界に数年、サイクリングツアーを開催する会社に11年ほど勤めていて、独立する際、まず自分がやれることから考えはじめたのがきっかけです。それに観光客の方が主なお客さまとなるレンタサイクルの場合、今のような状況や、以前あったリーマンショックなど、予測できない事態に陥った時に打撃を受けるのは目に見えていました。コーヒーという要素を付け加えれば、地元の方や、コーヒーめぐりをされている方、喉が乾いた時にふらっと入って来られる方など、観光プラスアルファで訴求しやすいサービスかなと思ったんです。自転車を借りて返して終わりというのもやはりもったいないですし、そこからつなげられる何かがあるのではないかと。なにより地元の方と観光客の方が交わる場所をつくりたかったという動機も大きいかと思います。
Q2 お店ではコーヒーを通じたコミュニケーションの場が生まれているのだとか?
うちは、レンタルできる自転車の台数をかなり絞っていて、電動自転車とかは置いていないので、来られる方って実は限られているんですよね。なにかしらうちに興味をもってくださっている方や、こういうスタイルに共感いただいている方。でもそうなっていることで、お客さまとの距離がより縮めやすくなっています。お店では僕からおすすめのルートを提案させていただいているんですけど、ひと組ずつ丁寧にご要望とか価値観に合わせた提案をしやすいかなっていう感覚がありますね。そういう時にコーヒーが、ゆっくり話しながらその場を和ませてくれる大事な要素になっています。
あとはやはり、観光客の方がコーヒースタンドで一緒になった地元の方から旅の情報を仕入れたりされていて、そういう場所がつくれて良かったなっていうのはあります。地元の方同士でも、この場所をきっかけにつながる光景も見られるので、うれしい限りですね。
Q3 自転車を借りて情報を仕入れて……。まさにここが旅の拠点になっているというわけですね。
場所的にもちょうど市内のど真ん中なので、お客さまもここを拠点としていろんなところに行きやすいというのはあるみたいです。それに最後は自転車を返しに戻って来られるので、僕からここがいいよってお客さまに教えて終わりにならず、お客さまから実際に行った感想や旅の話を聞けたりする。「楽しかったです」って言ってもらえると、あぁ良かったなって。それこそコーヒーを飲みながら、お客さまからその日のフィードバックというか、「こんなところもあったよ」とか、僕も知らない情報を教えていただいたり。そこで新たに教わった情報をまた次のお客さまにお伝えすることができるので、サービスに深みが増すというか、とても勉強になっています(笑)。
Q4 すごく素敵な循環ですね。
きっとこのサイズ感じゃないとできないですよね。レンタサイクルっていうと、電動自転車とかいろいろな車種を揃えて、台数持ってなんぼっていう世界だったんですけど、それだとどうしても数をこなさないといけなくなる。レンタサイクルの年間稼働率っておよそ30%くらいしかなくて、繁忙期しかほぼ稼働しないというのが現実です。繁忙期のみとなると、もう本当に次から次へ、横流しになってしまう。それだとレンタサイクルに対するイメージが、ただ借りるだけの場所という感じになってしまうので、僕はそれはちょっと嫌だなと。せっかく京都という場所に来て自転車を借りていただけるのだから、旅のはじまりから終わりまで、しっかりとケアをしたいなという思いが強いですね。
Q5 過去には海外で働いたり、さまざまな国を旅されてきたという石原さん。現在、京都で活動されている理由はなんでしょうか。
仕事でイギリスに数年住んだり、各国を旅するなかで思ったのが、自分自身が海外の方に対して自信をもって、日本はこういう国なんだよという話があまりできなかったということ。それは日本のことをちゃんと知らなかったからで、知らないがゆえに日本の良いところを誇りをもって相手に伝えられなかったもどかしさがありました。そんな経験から、日本に来られる海外の方に、日本の歴史や文化、そこからこのように今に至ってるんだということをしっかり伝えてあげたい。そして帰国された際に「日本はこういうところだったよ」と話したり、「また行ってみたい」と思ってもらえるような取り組みがしたい。そんな理由から日本の歴史や文化が街に息づく京都を選びました。
あとはもちろん日本の方にも、僕自身がそうだったように、京都という街で日本の姿を再発見してほしいですね。今じゃ逆に、海外の方が日本の良さを発見してくれるようなことさえありますから。あらためて自転車でローカル目線の京都を回ることで日本を再発見というか、誇りを感じていただけるような経験になればと思います。
Q6 京都とサイクリングについて、自転車で京都を旅する魅力はどこにあるでしょうか。
自転車で走っていてこんなに楽しい街って、日本では他にないんじゃないでしょうか。しまなみ街道とかはまた別の楽しみがあるんですが、まちなかのサイクリングでいうと、京都は日本で類をみない特別な場所だと思います。京都の方はあまり実感されていないと思うんですけど、角を曲がるたびに新しい発見というか、さすが京都だなっていう風景に出合える。それが京都で自転車に乗っていて楽しいところだと思います。
僕がお店でルートを提案する際には、もちろんザ・観光的な場所も盛り込むんですが、そこへ行くまでのルートはなるべく地元の方が通るような、もしくは地元の方でも知らないようなルートをお伝えして、地元民になったような感じで走っていただくようにしています。朝は子どもたちが通学している風景とか、どこかの家で朝食を用意している匂いとか。徒歩では遠距離の移動は難しいですし、ついスマホを見てしまうこともあったりして、なかなか景色に集中できないのではないかと。ローカルな京都を存分に味わえるのが自転車の醍醐味かなと思いますね。
Q7 自転車なら遠距離の移動もできて、細部まで見ることができる。この兼ね合いがちょうどいいですよね。
いろんな場所で止まれるし、すぐに引き返せる。自転車の速度で流れていく景色がちょうどいいんじゃないでしょうか。
京都の風景には破綻がないんです。歴史的建造物があって、建物が低いので空と自然が近い。まちなかにいても、遠くを見た時に山が見えるじゃないですか。なかなかこういう風景ってヨーロッパとかにまで行かないとないと思うんです。僕がよく走る鴨川は自然と共存するかたちで整備されていて、他府県や海外の方が驚くほど水もきれい。あてもなく走るのでさえ楽しいと思います。
京都に来たらできる限りいろんなところを回ろうとか、たくさんお店に行こうとかももちろんいいんですけど、それに加えて何気ない風景や日常の空気を体感してもらえたらうれしいですね。そういう部分にこそ京都の良さであったり、今まで京都がこの形で残っている理由が見つかると思うんです。
Q8 移動さえ価値になるのは京都ならではかもしれませんね。石原さんおすすめのサイクリングコースを教えてください。
僕のお気に入りは、お店で開催しているモーニングツアーで走るコースです。自転車で行きやすく、随所に京都らしさが詰まっている。京都のあらゆる要素がギュッと凝縮されたコースだと思いますよ。
Q9 お店の今後の活動も気になります。
お店はこういう形で続けながら、サイクリングツアーをもう少し充実させたいなと思っています。今はまちなか観光のツアーのみにしているんですけど、カーゴバイクのような後ろに荷台のある自転車を使って、キャンプやアクティビティの要素を加えたツアーもやりたいです。あとこれは、海外の方が戻ってきたらなんですけど、より長距離を走れる自転車を使って、里山に行くツーリング的なツアーを開催したりと、より広いサイクリングのかたち提案していけたらいいなと思っています。
<プロフィール>
石原直樹(いしはら・なおき)
烏丸御池にあるレンタサイクルとコーヒースタンドの店「THE GOOD DAY VELO BIKES & COFFEE KYOTO」店主。自らが企画・ガイドを務めるサイクリングツアーも開催。
・HP:THE GOOD DAY VELO BIKES & COFFEE KYOTO
企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
写真提供(敬称略):石原直樹