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噂な旅通信

もう「開店即売切」の不安なし!間借りカレーのキテレツがついに西院で自店舗をオープンしたらしい

「ポmagazine」編集部
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京都のプロや旅のプロに、街の噂や旅の好奇心をくすぐるお話を聞く連載「噂な旅通信」。
今回お話を伺ったのは、「スパイスカレーキテレツ」の店主、徳増良介さんです。

「あの人気間借りカレー店がついに店舗をオープンするらしい」と編集部をざわつかせたのは10月初旬のこと。キテレツは、今年9月まで丸太町のバー「明ヶ粋ヶ (あけすけ)」で間借り営業を行っていたスパイスカレー店。間借り時代には毎度長蛇の列ができるほどの人気店が11月1日、ついに店舗をオープン。編集部もかねてから通っていたお店とあって、ぜひお話を聞きたいと取材を決行しました。

店主の徳増さんは二条にあるカレー店「CURRY & BAR 240(ニコヨン)」の元店長。ニコヨンは、一皿に3~4種類のカレーをかけるあいがけスタイルの先駆けといわれ、京都のスパイスカレー界を代表する名店として知られています。キテレツが店舗を構えることになった経緯や、根強い人気を集めるカレーの秘密、そして気になる新店の構想などを聞いてきました。

Q1  間借りで営業をはじめられた理由やきっかけを教えてください。

ニコヨンの店長だった時代から、カレー屋と並行してバンド活動もしていて、ライブで抜けたりツアーで1週間帰ってこられなかったりといったことが続いたんです。店長なのに抜けすぎるのもどうかと思い、だったらひとりで気楽にやれる形態がいいかなと。そんなことをSNSで投稿したところ、明ヶ粋ヶさんが、店を開けていない昼間は場所を使っていいよと言ってくださったのがはじまりです。あとから聞くとあんなにガッツリ入るとは思っていなかったみたいですけど(笑)。

「キテレツ」の名前の由来は、徳増さん自身が『ドラえもん』や『キテレツ大百科』が好きであることと、「奇妙な」「不思議な」という意味にひかれたことにあるそう。

Q2  カレーのメニューはどのように開発されているのでしょうか。

カレーづくり自体はほぼ独学です。市販のスパイスカレーキットを買って、家でつくってみたのが最初。そこからハマって今に至ります。カレーの開発は、季節感をいちばんの軸にすえて考えているかもしれないですね。秋だったら、きのことか鮭がおいしいかな、みたいな。

あと僕、実は普段あまりカレーを外に食べに行かないんですよ。よく行くご飯屋さんは、和食とかラーメン屋のほうが多くて。二条城の近くに「乍旨司(さしす)」という居酒屋さんがあるのですが、そこの和食のクオリティがすごく高くて。「こんな素材同士を組み合わせるんだ」と驚くことも多く、これはカレーで使えそうとか、ひらめきをもらっています。和のジャンルから味や発想のヒントを得ていることは意外と多いかもしれないですね。他のカレー屋さんに行ってしまうと、たぶんそのまま真似したくなってしまうので(笑)。どうしても気になった店以外はあんまり行かないですね。それこそココイチとかのほうがよく行きますよ(笑)。

Q3  たしかに、夏の「うなぎスペシャル」など、キテレツさんのカレーには和食のエッセンスが感じられます。「あいがけスタイル」という点で、とくに工夫しているポイントはありますか。

あいがけって難しいですよね……。あいがけをはじめたニコヨンの時は、とりあえずなにか目立つことをしないとっていう気持ちがあって。当時、2種あいがけとかをやっているお店はあったんですが、3種、4種というのはあまり聞いたことがなかったので、まだ誰もやっていないんじゃないかと勢いではじめたのはけっこうありますね(笑)。

メニューの構成も基本は深く考えず、好きなカレー同士や好きな色同士とかで組み合わせていました。でも最近、これは調和していないんじゃないかみたいな感じが出てきて、また今ちょっと迷子になりかけていますが……(笑)。ただずっと基本にあるのは、インドの「アーユルヴェーダ」に近い考え方ですね。南インドでは、甘味、酸味、塩味、辛味、苦味、渋味という6つの味をひとつのプレートに盛り込む食事法がとられることが多いようなんです。で、この6つの味のバランスというのは、構成を考えるときにも大切にしていますね。

一番人気の「エスニックキテレツスペシャル」。本日のカレー4種に副菜4種、パクチーとグリーンチリ、卵黄とタンドリーチキンをトッピングした盛りだくさんの一皿。

Q4 キテレツさんのカレーは、パワーを感じるビジュアルも魅力のひとつになっています。

色のバランスはけっこう気にしていますね。あいがけなので似ている色が近くならないようにだとか。他にも、オクラとか野菜のカレーは煮込んで置いておくと色あせてしまうので、そういったものは色が映えるようにあらかじめ茹でておいて、あとから乗せたり。このひと手間だけで見た目がだいぶ変わるんです。

あとはやはり季節感ですね。その時期の食材で見た目にも季節を感じられるようにしています。昔は秋のカレーにモミジを乗せたりもしていました。こういった部分も和食を参考にしていたりします。

Q5 キテレツの自店舗オープンはカレー好きな方にとってかなりホットなニュースかと思います。どんな経緯で開店に至ったのでしょうか。

キテレツをはじめてから1年くらいはずっと間借りだけのつもりだったんです。ただ、ありがたいことにどんどんお客さんについていただいて。間借り営業だと、カレーはいつも夜に自宅で仕込んで、原付に積んで運び、すごい荷物で店の階段を上がってというのをやっていたので、めちゃくちゃしんどかったんです(笑)。それに自宅だと長時間炊けないとか、やりたいメニューがあっても設備の関係でできないとかそういう限界がありました。仕込む量も自宅から運べるだけに限られてしまうので、最後の方はオープンと同時に「今、並んでいる方で終了です」みたいなことも多くて。大阪からわざわざ来てくださるような方もいるのにそれでは申し訳ないので、きちんとキャパのある店舗を持とうと思いました。

Q6 新店舗ではメニューや営業スタイルなどに変化はあるのでしょうか。

これまでの4種あいがけカレーは出しつつ、開店準備期間に開発した新メニューも出していきたいですね。あと、これはまだ構想段階ですが、夜はエスニック酒場のようなスタイルにすることも考えています。スパイスを使ったお料理をお酒と一緒に楽しむ場所にできたら。

お店の雰囲気は、明ヶ粋ヶさんのシックな雰囲気に慣れているというのもあり、コンクリート調の落ち着いた感じ。立地は、基本僕がひっそりとしたところが好きなので、こんなところにあるねんやっていう場所です(笑)。


阪急西院駅から徒歩8分ほどの路地裏に佇む新生キテレツ。「オープンを発表した際のSNSでの反響が何より嬉しかった」と徳増さん。

Q7 オープン準備期間には九州へ「カレー修行」に行ったと伺いました。

九州には「九州ランカ」といわれる九州独自のスリランカカレー文化があるんです。ココナッツベースの辛いスープカレーを基本とし、チキンカレーと野菜カレーのあいがけにカラムーチョをのせたものや、ご飯の代わりに炒めたビーフンを食べるヌードルカリーなど、本場のスリランカカレーとも違う独自の進化を遂げています。

僕も実際食べて、こんなにおいしいのに九州まで行かないと食べられないというのはめちゃくちゃもったいないと思って。お店で出すためにひたすら食べて研究しました。帰って何回も試作して、だいぶ近い味が出るようになってきたので、キテレツの新メニューとして出せたらと考えています。

九州ではソウルフード的な存在であるという、九州ランカスタイルのカレー。写真は徳増さんが研究を重ねて開発した「キテレツランカ」のカレー。

Q8 徳増さんにとって、スパイスカレーの魅力はどんなところにあるのでしょうか。

つくり方や食材にルールがない、自由さが一番のおもしろいところだと思います。僕の場合けっこう、南インドやそれこそスリランカのカレーに影響を受けているんですけど。他にもカレーで言うとネパールやベンガルとかにもありますし、はたまた創作系で、例えば和の食材をスパイスで調理してみるだとか。本当にルールがないので、どんな一皿にするのか、つくる人によって無限のバリエーションがあると思います。まわりでも元々、ラーメン屋やソムリエ、フレンチのシェフをしていた人がカレーをつくっていたりして、やっぱりつくる人の個性がすごく反映されるので本当におもしろいです。
この何をやってもいい自由さは、並行して取り組んでいるバンド活動と重なる部分かもしれません。バンドマンがやってるスパイスカレー屋が多いのも、こういうところに理由があるのかもしれませんね(笑)。

Q9 最後に新店舗の意気込みや今後の展望を教えてください。

間借り時代からたくさんのお客さんに来ていただいていたので、新店舗ではなるべく売り切れ次第終了っていうのはなくしたいなと思っています。仕込み次第ではありますが、お昼の営業は15時まで開けていたいですね。夜は普通のカレーの営業と、たまには、先ほどお話した居酒屋のようにアットホームでゆったりとした時間もつくりたいです。行列ができているとパッと出ないといけないような雰囲気になってしまっていたので、今度はもう少しゆっくり喋れたりするような空間がつくれると良いなと思っています。

あとは、以前から実施していた「スペシャルデー」で提供する特別メニューの幅をもう少し増やしたいです。思いついたアイデアをどんどん反映して日替わりカレーとしてお出ししたり、それこそさっきお話した九州ランカのようなカレーをつくったり、他の店にはないようなメニューにもどんどん挑戦していきたいですね。

 

<プロフィール>
徳増良介(とくます・りょうすけ)
あいがけスタイルのカレーが人気を集めたスパイスカレー店「CURRY & BAR 240」の元店長。2020年からスパイスカレーの店「スパイスカレーキテレツ」を間借り営業でスタートさせ、2021年11月1日西院駅近くに実店舗をオープン。ロックバンド「LABRET(ラブレット)」でギターを務めるバンドマンでもある。
HP:スパイスカレー キテレツ

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
写真提供(敬称略):徳増良介