2024.7.11
【今週末が暫定ラストイベント】ミシュランレストランも頼る「山野草の賢者」が京都にいるらしい
噂の広まり
京都のプロや旅のプロに、街の噂や旅の好奇心をくすぐるお話を聞く連載「噂な旅通信」。
今回は、京都は大原を拠点とする山野草のスペシャリストとして、「バカボン」の愛称で親しまれている福永重孝さんにお話を伺います。
実は京都は山野草の聖地とも呼ばれているらしい、そんな噂も聞こえてくる昨今。福永さんは採取した山野草を京都市内のさまざまなお店やホテル、イベントで提供しています。直近では、元田中のフランス料理店・La Part Dieu (ラ・パール・デュー)、一乗寺の日本料理店・唯食いかわ、夷川通のイタリア料理店・Furlan(フルラン)などに野草を卸し、関西以外でも岐阜や愛知、東京などミシュランレストランを含む幅広いお店から引くて数多な「野草の賢者」なのです。
今回は福永さんが毎月出店し、自ら山野草料理をふるまっているヒノコ市に訪問。軽快に野草を捌いていく福永さんに、京都と山野草の素朴な質問を投げかけてみました。
Q1 京都が「山野草の聖地」と呼ばれているのは本当なんでしょうか。
そうですね。私が主に活動しているのは大原で、ここの山を分け入って採れる野草は、新鮮な空気と良い水で育まれているから良い味なんです。採れる種類が他の場所の山々と特別違うということはないんですけど、有名なシェフやお店の方には、この場所のファンが多くいらっしゃいます。彼らから噂が広まって、今では聖地と呼ばれるようになりました。
イギリス出身のハーバリストとして知られるベニシア・スタンリー・スミスさんも大原に惚れ込んで自宅を構えられていたようですね。また、昭和天皇は植物にとてもお詳しい方だったのですが、京都大学の先生が帯同されて案内されたそうで、そのような経緯もあり京都が注目されやすかったのではないでしょうか。
Q2 どんな山野草がポピュラーでしょうか?
春はセイヨウタンポポやウワミズザクラ、シャクなどでしょうか。シャクはセリと三つ葉を足したような味が爽やかです。夏はヨメナだったりクマザサ。秋は栗も採れるし、カラスウリなんかは綺麗な色なので飾りに使えます。冬はナズナ、ツバキ、タネツケバナなんかもポピュラーですね。
ヨーロッパでは野草を料理に使う文化が根付いているんで、シェフが自分で採りに行くなんてこともザラですよ。ジンの材料にジュニパーベリーだったり、ソースに使うオゼイユ(スイバ)なんかも向こうでは定番ですね。
Q3 福永さんはいつから、どんな風にして、今のお仕事をはじめられたんでしょうか?
はじめたのは十数年前からです。もともとは出版社でデザイナーをしていて、山野草採りは趣味でした。採ったものを数人に渡してはいましたが、あくまで本業ではなかった。でもいい歳になって、これからずっと生きていくことを考えたときに、お金じゃなくて楽しいことをしていきたいなと思うようになったんです。当時は週に1冊の本を仕上げるようなサイクルで忙しかったし、ちょうど時期的に誰でもデザインができるようになってきたことも一因ですね。
やめてからはとにかく一生懸命できることをやってきましたね。どんな仕事もそうでしょうけど、とにかく考えてやっていればうまくいく。当時考えていたことのひとつはとにかく採取して料理して、いろんな人に食べてもらいたいということでした。
Q4 現在はどのくらいの頻度で山野草を採取されているんですか?
基本は毎日出かけています。八百屋さん、ご飯屋さん、イベント、いろんな人から注文があるので、天候次第で行く場所や時間は左右されます。春には「つくし飴」をつくるためにつくしを千本採ってきてほしいという依頼が和菓子屋さんからありました。山では春でも雪が降ることが多くて、雪が積もるとつくしは見えなくなるので、降る前に採りにいかなくちゃいけない。とにかく天候に左右されますね。雨が降っていたほうが採取に都合がいい野草もあるし、そうでない野草もある。
採取する場所はものによりますけど、大事なのは、採りすぎないこと。種を絶やしてはいけないので、二週間くらい期間をあけて、場所を変えながら採取します。
Q5 どうすれば野草に詳しくなれますか?
私は甲賀市の生まれで、野山もあって自然豊かな土地だったので、幼少期から自分で山野草やキノコを採って、魚を釣って料理していました。今はみなさんから依頼を受けてやっているので、必ず味見をして採取するようにしています。品種がわからない野草もありますけど、そのときは見た目を注意深く観察して、口に入れてすぐに吐き出します。これは自己責任ですから、真似するのはお勧めしません(笑)。あとは、図鑑や学術書をみてレパートリーを増やしてきましたね。
でも、野草は種類がほんとにたくさんあるので、なかなかわからないですよね。覚えるのは僕には無理ですよ。日本は四季があるので野草の数が多い。ヨーロッパの倍、アメリカの3倍くらいはある。4万種類くらいあるんじゃないかな。だから勉強しなくていいんですよ。おいしいものだけ覚えればいい。道端にあるもの全て名前を覚えようなんてできないでしょう。ただ、公園とか鴨川に生えてる草木の名前を言えたらかっこよくないですか?それくらいですね。あとは食べちゃいけない野草は覚えておいたほうがいいかな。
Q6 野草を身近に感じるために、まず何からはじめるとよいでしょう?
身近なものを摘んで食べるのがいいと思います。庭に生えている三つ葉とかヨモギは広く親しまれていますよね。ノビルはどの部分も食べられて、知っている人には愛されているやそうだと思います。あとは野菜を自分で育ててみるとか。自然を楽しむことがこれからの時代、重要じゃないかな。
忘れてしまいがちですが、スーパーや八百屋で当たり前に買っている野菜も、もともと野山に自生していた野草ですよ。それに品種改良を加え、生産しやすく流通しやすくしたのが野菜ですから、山野草も身近な存在です。
みんな買ってきたものを食べるのが当たり前になっていて、身近な植物を食べる習慣がなくなってしまった。もっと日常的に、誰もが自然に親しめるといいなと思います。でもそれが「広まってほしい」とか「体にいいからやりましょう」とかそういう大きなことを言うつもりはないですね。自然に楽しめればいい。
Q7 京都で、山野草を味わえる場所はありますか?
許可が必要だったり危険もあるので、ご自身で山に入っていってもらうのは難しいかもしれませんが、先ほども話があったように京都は山野草の聖地と呼ばれることもありますから、いまはいろんなお店やイベントで味わえると思います。
私たちは大原のフレンチレストランのla bûche(ラ・ブッシュ)さんにもいくつか卸してますし、月に1回開催されているヒノコ市ではカジュアルに山野草料理を食べてもらえるよう料理しています。ほかにもイベントにはちょこちょこ出店してるので、気軽に楽しんでもらえたら嬉しいですね。
しかし残念ながら、この7月13日の開催で、いったんヒノコ市は終了となるとのこと。山野草に親しめるイベントやバカボンさんの取り組みの最新情報を知りたい方は、バカボンさんが主となり日々さまざまな人が投稿するFacebookグループ「おいしい山野草部New」を要チェック。
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企画編集(順不同、敬称略):河井冬穂(合同会社バンクトゥ)
写真提供(順不同、敬称略):福永重孝さん