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16年目の今、音博は“ターニングポイント”を迎えているらしい【岸田繁さんインタビュー・前編】

「ポmagazine」編集部
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井戸端会議

2007年から毎年開催され、今年で16回目を迎える「京都音楽博覧会」。2020年、2021年のオンライン開催を経て今年、3年ぶりに梅小路公園に帰ってくる。

試行錯誤のもと開催された2020年、2021年の音博の裏側と、間近となった3年ぶりの現地開催について。気になるあれこれを、主催者であるくるり・岸田繁さんにインタビュー。岸田さんいわく、音博は今、ターニングポイントといえる時期に差し掛かっているという。詳しく話を聞いてみた。

コロナ禍での「種まき」と原点回帰

— まずはオンラインで開催された2020年、2021年の音博から振り返っていけたら。オンライン開催を決断した時の心境は覚えていますか?

岸田:当時はとにかく状況が不透明でした。そのなかでいろいろなことを決めないといけなかった。そこで恐怖を感じて何もしないっていうのもひとつの戦い方だと思うんですけれども、最大限、何ができるのか考えるっていうのも我々の使命だと感じて、とりあえず考えようと。なけなしのアイデアをとにかく捻り出したという感覚です。

— ハードな状況だったことは間違いないと思いますが、同時に並々ならぬエネルギーを感じた記憶があります。トレーラームービーや音博マーケット、岸田繁楽団など、熱の入った試みの数々が印象的でした。

岸田:中止になった時点でマイナスからのスタートになってしまうのは避けられないと思ったんですよね。そこで代わりにやることがしょうもなかったら、もっとがっかりさせてしまう。こういう時だからこそ、前々からやってみたいと言っていたことを実現しようという話になりまして。

— まったく新しい挑戦というより、温めていたアイデアを試行する感覚に近かった。

岸田:そうですね。種まきをする気持ちで、無駄になってもいいからとりあえずやってみようと。

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梅小路公園内、音博のステージが設置される「芝生広場」に立ち、オンライン開催となった2020年のことを一つひとつ思い出す

— 音楽イベントの中止が続き、音楽活動のかたちが社会全体で大きく変化した時期だったとも感じています。

岸田:コロナ禍になる前、我々がいる音楽の世界では、経済活動として音楽をやっていくためには、とにかくライブをやる、コンサートをやるっていうことが常になってたんですよね。逆に、くるりがデビューしたころは、音楽制作がメインの経済活動のひとつだったんですよ。私たちアーティストはレコード会社と契約をして、新曲をつくってCDを制作して売ると。この20年で様相が様変わりしたんです。それがコロナ禍になって難しくなり、引きこもって制作をする時間が増えた。

— 試行錯誤する2年だったと同時に、制作という部分では原点回帰に近い感覚もあったということでしょうか?

岸田:そうかもしれません。僕自身は元々、アーティストはものづくりの人、現場の人であるという考え方です。だから人前で出来ないのであればこもってつくればいいやんと思えた。制作の裏側含めて発信できる時代でもあるので、やれることをやって、アーティストとしての筆が腐らないようにやっていこうと覚悟を決めたわけなんです。

2020年のトレーラームービーでは、岸田繁楽団の背景について語られていました。

岸田:自分がこれまで取り組んできたことがある程度みんなに伝わっている実感はありつつ、そうでない部分もたくさんあることに同時に気づいていたので、そこを届ける試みをしてみようと。この映像作品は、今でも僕の心の宝になっています。

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2020年〜2021年を「むしろ自分たちらしいやり方で制作に取り組めた期間だった」と振り返る岸田さん

岸田:僕自身としては、いい作品かそうじゃないかっていうのは、かけた時間には必ずしも比例しないと思っています。そのうえで時間や手間をかけてやることのメリットって何かというと、いくつかの視点が持てるってことだと思うんですよね。今日の自分と明日の自分って違いますから、より多くの視点でトライアルアンドエラーができる。僕もくるりも勢いだけでパッとやったり、効率重視で進めたりということをしないタイプなので、結果として良かったですね。

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「コロナ禍で締切が延びたものも多くて、そこで長い時間向き合った仕事は、すごく賞味期限が長いものになってるんじゃないかなっていう気がしています」

岸田:やっぱり音楽をつくるっていうことは芸術だと僕は思っていますから。いろんな記憶や想像、五感、六感をフル回転させて感じるもの。それらを自分自身の技術や姿勢をもって、できる限り体現したいんです。

2回のオンライン開催を経て迎えた「音博のターニングポイント」

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— 2020年から2021年を振り返ってきまして、いよいよ今年は現地開催となる音博です。

岸田:3年ぶりですからね。初心にかえってエイッとやってみたい気持ちです。

— 出演者が発表された時の反響も大きかったですね。ラインナップについて、今までより若い印象だという声もありました。これについてはブッキング時点で意識されていたんでしょうか?

岸田:そうですね。というのも、音博を続けるうえで今年はけっこうターニングポイントやと思っていて。これまでの音博はベテランの方のパワーに支えてもらっているところがあった。でも今は僕たちがベテランの枠に入ってきている。決して偉そうなことは言えませんが、背中を見せていかないといけない部分はあると思います。

— 若い世代のアーティストには、どのような背中を見せていきたいですか?

岸田:僕自身も指針としていることがふたつあるんです。ひとつは「これ無駄だよね」って思うことだけ集めてやってみたらどうなるか、それをシミュレーションしてみようということ。普通に考えたら「ナシ」なことだけをやってみる。現実にはそれだけだと成り立たないんですが、やらなければいけないことだけやっていると、かえって本当にやるべきことを見失ってしまうんですよね。そんな時は寄り道して遊ぶことが助けになる。やらなくてもいい大変なことをあえてやる、仲間内だけじゃなく外から全然違う人を入れてみる。音博はそれを体現したようなイベントになっていると思います。

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「“やらなくてもいいこと”をどんどんやっている。これは音博ならではかもしれません」

岸田:もうひとつは、誰に「やるな」って言われてもやらずにはいられない、そういう何かがあるなら、それをやり続けようということ。若いミュージシャンにはそういう方が多いと感じていて、すごくいいなと思いますね。今回ブッキングした方も思いの強さがある方ばかり。SHISHAMOさんなんかは「僕がマネージャーやったら止めるよ」ってぐらい忙しいスケジュールのなかで「ぜひ出たい」と言ってくれて。他にも強い若手が揃っていて、槙原さんという強いベテランもいて、僕たちも負けていられないです。

音博はマーケットも見逃せない

— ブッキングといえば、マーケット出店者の方も岸田さんが直接選ばれているとか。

岸田:すべてではありませんが、僕が紹介させていただいているお店もありますね。

— 例年出店されているところだと、ウクライナ料理の「キエフ」さんや、オイルサーディンで有名な「竹中罐詰」さんが今年も来られると。

岸田:「キエフ」さんは昔から好きなお店ですね。ウクライナ料理なんですが、ピロシキなどの味付けにちょっと京都風の工夫がされていたりして、なんか良いなと思うんですよね。

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「キエフ」には同郷である「10−FEET」のギターボーカル・TAKUMAさんと訪れることもあるそう

岸田:「竹中罐詰」さんのオイルサーディンは、これはぜひいろんな方に召し上がっていただきたいですね。僕はもう昔から大好きで……。少しニッチな話になりますが、丹後の海って、天橋立の内と外でイワシの種類が違っていて、「竹中罐詰」さんではその両方のオイルサーディンをつくってらっしゃるんです。僕はカタクチイワシがいちばん好きなんですけれども、ハタハタもすごくおいしい。ちょっと値が張りますけど、帆立の貝柱もいいし、牡蠣のやつも牡蠣好きにはちょっとたまらないですよね。スパゲッティとかつくる時に僕はよく使います。

— これは必食ですね。缶詰なのでお土産にも良さそう。そして今年は納豆の「藤原食品」さんが新たに出店されます。

岸田:僕、納豆好きなんですよ。藤原さんの納豆は、京都だとローカルスーパーの「フレスコ」なんかに置いてますね。ずっと「おいしいなあ」と思っていて、音博で納豆つくっていただくのはどうかなと考えていたら、ちょうど藤原さんから知り合いを通じて打診があって。京都産の大豆で納豆をつくりたいんだけども、少量生産だとどうしても廃棄が出てしまうと。だからある程度の数をちゃんとつくれる場をということで、音博のためにオリジナルの納豆をつくっていただいています。試供品をいただいたんですが、すごくおいしかったですよ。

— 音楽も食も、今年は現地ならではの空気のなかで楽しめますね。

岸田:やっぱり現地にチケット買って来ていただいて、生でその場限りのものをやるっていうのは、オンラインとは全然違いますよね。その場でしかできないものが一瞬にしてできあがるわけですから。昨年、一昨年とはまた違う体験を楽しんでもらえるはずです。

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★インタビューの後編はこちら

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂(合同会社バンクトゥ)
撮影:牛久保賢二
企画協力:石野亜童(E inc.)

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