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京都のリサイクルショップで、実用と非実用の間(はざま)を探索するのが楽しいらしい

稲田ズイキ
作家、僧侶

噂の広まり

井戸端会議

街で見かけると、なにかと気になるリサイクルショップ。レアな掘り出し物が見つかったり、あんなものやこんなものが驚きの安さで買えたりと、由緒正しき古道具屋や今っぽいセレクトショップともまた違った魅力を感じます。

誰も見たことがない物を見つけたい。物を捨てるときのうしろめたさをなくしたい。大量生産・大量消費に少しでも反抗したい。そう思う我々の希望の光は、街のリサイクルショップに灯っている。あの空間の「カオス」にひかれるのは、そんな可能性を感じるからかもしれません。

今回の企画では「物」を偏愛する人々がリサイクルショップを探索。僧侶でありながら作家でもある稲田ズイキさんをライターに迎え、「非実用品めだか」の元店主・佐藤雅志さんとともに京都のとあるリサイクルショップへ赴きました。場の持つ魅力や、物を”掘り起こす”コツについてあれこれと雑談していくうちに、話は「物との向き合い方」に及んでいきます。

とある京都のリサイクルショップの一角。リサイクルショップには名前はなく「フリマ」と大きな看板があるのみ
とある京都のリサイクルショップの一角。リサイクルショップには名前はなく「フリマ」と大きな看板があるのみ

【記事に登場する人】

■佐藤雅志(さとう・まさし)さん

佐藤雅志(さとう・まさし)さん

「非実用品店」というコンセプトで、役に立たない物を販売しながら、物の見方を提供する異色の古道具店を営まれていた佐藤さん。前回のポmagazineご登場時には、お店の「売れ残り」をプレゼンいただきました。なにやら2022年にお店を閉業され、今は実用品と非実用品の間で揺れているらしい。気になります。

お店をやめた理由は、「飽きた」とのこと。

■稲田ズイキ(いなだ・ずいき)

稲田ズイキ(いなだ・ずいき)

この記事を書いた人。作家であり僧侶。最近、物や名付けることについて考えていたら、物に関する企画のお誘いが舞いこんでくるようになりました。不思議です。

「いいもんはだいたい、上か下にあるんです」

棚の上の鳥の置物
確かにすごそうなものが、上にあった

京都のとあるリサイクルショップにて集合。お互いに自己紹介を済ませ、「それぞれ、1000円以内で気になるものを購入する」というルールのもと探索スタート。

店に入るやいなや、一寸の迷いもなく、店の奥に突き進む佐藤さん。何事?と尋ねてみれば「まずは、カバンの置き場所を確保しました」とのこと。手練れのやり口である。

雑貨や衣服、日用品から謎の絵画まで、物が所狭しと並んでいる。店番をしているおばちゃん曰く、まだお店は3年目とのことで、近所に住んでいる人の利用が多いらしく、買取と販売のバランスは季節によってまちまちだそうだ。

僕がぼぉとしているうちに、続々と”買い”候補を積み上げていく佐藤さん。「え、そんないい感じの物、どこにありました?」と狼狽えていると、「いいもんはだいたい、上か下にあるんです」と、掘り出し物を掘るときのコツが伝授された。

レースのカーテン
そんな話をしていると、我々の前に急に現れでたカーテン(佐藤さんいわくずっとあったそう)

佐藤「ここにこんなカーテンあんの、見えてました?」

たしかに、視界に入っているはずなのに、見えていなかった。素敵なカーテンだった。リサイクルショップでの物探しは、「いかに自分が何も見ていないか」を痛感する。上か下か、目線の位置ではないところにお宝があるというのは、ふしぎだけど、なんとなく分かる感覚だった。

そして購入をそれぞれ済ませ、対談に向けて公園まで移動。

余談だが、リサイクルショップからの移動中、佐藤さんは「見てください。あの墓、ひとつだけ三角ですね」とか「うわ、あの駐車場の塀がなかったら、道路の側面めっちゃむきだしやん」などとこぼしていて、その視点のエキセントリックさに驚いてばかりだった。物だけじゃなく、街の目利きもめちゃくちゃに研ぎ澄まされていた。

「自分が買わんと誰も買わんやろ、ってものを減らしていかんと」

公園に到着
公園に到着

それぞれが買ったものを見せ合いっこすることに。

鶏の置物
磨くといいよと、店主のおばちゃんに言われた

稲田「僕はこの鶏を買いました。河内成幸さんっていう、鶏の絵をたくさん描かれている版画作家さんがいて、その人の作品を見てから、鶏には目がないんですよ。これは佐藤さん的にどうですか?」

佐藤「こういうのはだいたい干支の置物なんですよね。毎年作られてるから、数が多い。だから、個人的にはちょっと見飽きている感じですね。稲田さん、お店で動物のアイテムをいくつか手にとってましたね」

稲田「虎の灰皿とか、夫婦鳥のグラスとかね。ものが生きているなって思える状態が好きで、動物って一番わかりやすいモチーフじゃないですか。なので、そういうアイテムを近くに置いていると楽しい気持ちになるんです。佐藤さんは何買ったんですか?」

白いスニーカー

佐藤「靴がずっと欲しかったんですよ。以前やってたお店は「非実用品」とかって言ってたんですけど、実は質実剛健なものが好きなんです。この靴、少しエブリィっぽいんですよね。エブリィってのは今乗ってる車で、軽バンです。軽バンって質実剛健そのもので。ところで、靴と車って似てますね。今日は子どもの保育園の見学に行ってたから、いい靴を履いてるんですが、いつものはゴムのところがツルッツルッになってて、まじでやばいっすよ」

さらに、佐藤さんが最近リサイクルショップで買ったものを見せてもらった。

鉛筆
液体のり
京都の七本松通りにあるリサイクルショップ『ハンドトゥハンド』で

佐藤「欲しい物があったら100均やホームセンターに行くんじゃなくてリサイクルショップにまず行く。たとえば鉛筆って案外、買ったら高いじゃないですか。友達の家に行った時に、もらえへんかなぁとか、いつも思ってて。どこの家にも使いさしの鉛筆ってあるけど、そんなん捨てられてまうから。だから、そういう鉛筆たちのことを思ったらね」

稲田「つい見かけたら買っちゃうんですか」

佐藤「もちろん欲しいから買ってるんですけど。でも、自分が買わんと誰も買わんやろってものを減らしていかんと、とも思っています。この液体糊は80円、百均との差額はたった30円。単に節約の為だけじゃなくて誰からも買われずにいる物のために、絶対にそれがある百均にまず行くんじゃなくて、あるかないか分からないリサイクルショップに行くんです」

星形のハンコ
稲田が地元のリサイクルショップで買ったはんこ

稲田「リサイクルショップって、あんまり物が『買って!』って主張してないですよね。ものが皆、寝ていて、こっちを見ていない感じがする。値付けもされてなくて、おばちゃんが『いくらやったかなぁ。300円でいいよ』みたいな独特の経済ルールがあって。なんで価格をつけないんですか?」

佐藤「ダルいからとちゃいます?」

稲田「そうか、納得しました(笑)」

佐藤「お店をやめてから、あんまりリサイクルショップに行ってなかったんですけど、店に入ると久々にモードが変わった感じがしました。やっぱり好きですね」

貝の形の貯金箱
貝の形の貯金箱
購入には至らなかったが、佐藤さんがチョイスしたアイテム。海系のものが好きだそうで、オパールっぽい反射とちゃちさ、この軽さはなかなかないとのこと

「物の死」から物との向き合い方を考えてみる

公園内を歩くふたり
外は寒いので日の光を探して、あっちこっち移動しながら、「物」の話をする

稲田「自分が買ったものをリサイクルショップに売りにいくこともありますか?」

佐藤「全然ないですね。よぉ考えると、物を使い切るってまじで無理なんですよ。スプーンを使い切るのって、監獄から大脱走するときくらいじゃないですか」

稲田「じゃあ、スプーンって、いつ『使い切ったなぁ』って思って捨てるんでしょうね」

佐藤「それ、人が死ぬ時なんですよ。遺品整理とかね」

稲田「あぁ、人が死ぬときに物が捨てられるんですね。じゃあ、使い切ることができない物がたくさんこの世にあるなかで、物っていつ死を迎えるんだろうって考えちゃいますね。少なくとも個人の消費活動のなかで、物自体の価値がすべて果たされることはないじゃないですか」

佐藤「そうですね」

稲田「だとすれば、物の寿命は一人の人間よりも長い。一方でリサイクルという言葉は”re・cycle”として、物を『再び』循環させようとする意味合いじゃないですか。つまり、すでに一回循環したことが前提になっているんですよね。個人の消費で一度物が死んだことになっている」

砂に指で図を描く
自分でも話してて何言っているかわからなくなったので、図でなんとか伝えようとする

稲田「リサイクルショップの実態って、もう少し延命に近いと思うんですよ。でも、『リサイクル』という呼び名のせいで、死んだものを蘇らせているような感覚になるというか。『リサイクルショップじゃなくて、サイクルショップなんじゃないの?』って思いました。言葉レベルの話ですけど、物の死を考えていくと、もっと物が循環していく社会になるんじゃないかなぁ」

佐藤「今って、人もそうですけど、死は僕らから見えんようにされてるじゃないですか。そういう物の動きはバックヤードで行われてて、物の死も隠されているんかもしれないですね」

稲田「佐藤さんが『いい循環だなぁ』と感じるお店ってあったりしますか?」

佐藤「ザッカバッカーって古着屋さんで、金土日に2階で100円セールやってて、その店は循環力がすごいんですよ。とにかく商品数が多い。ローカルなお客さんも集まるし、あそこなら俺も服売ってもいいかなと思うくらい。クリスチャン・ボルタンスキーの『No Man’s Land』という古着の山を使った有名な作品があるんですけど、それが顕現してますよ」

稲田「物を売る時って次に誰が買ってくれるか、わからないまま流すじゃないですか。でも、そこに大きな流れがある安心感っていいですよね。ガンジス川みたいな」

佐藤「今って個人のリサイクルショップってすごく減ってると思うんですよ。商品を一個一個、プラスチックバックに入れてるような、大手のきれいめな店舗とかが増えてきて……」

稲田「増えてますよね」

佐藤「あれが10年後どうなってるんかなぁって期待する気持ちがあるんですよ。店の特色とか個人色が出ないのはおもしろくないなぁと思います。海外のリサイクルショップって、もっと進んでるんですよ。リトアニアにHumanaって古着屋があるんですが、下着を売ってるんです。中古の下着ってちょっと衝撃でしたね」

爆笑するふたり
物の話に盛り上がって、爆笑するふたり。気づけば日が暮れていた

稲田「国ごとでも物に対する感覚ってちがうんですね。店もそうだし、個人単位でも、物の見方を柔軟にできれば、物が増えていく一方の世の中だけど、いい感じに今あるもので分散できる社会をつくれるんじゃないかなぁと思いました」

佐藤「個人単位でいったら、何よりも、リサイクルショップで鉛筆を買うことっすよね」

稲田「まじで、その通りですね」

鉛筆
もう一度、鉛筆

「いつか個人のリサイクルショップの本とかも作ってみたいなぁ」とも話していた佐藤さん。「あの人たちは、いろんな家の片付けとかやってきているから、なんか多分おもしろいものを見てると思うんですよ」と。

佐藤さん独自の”物想い”目線は、世界の新しい「おもしろがり方」を教えてくれた。記事に登場した場所以外にも、京都にはまだまだ、しぶとく生き残っている個人経営のリサイクルショップがある。あなたに買われるのを待っている物たちを迎えに、リサイクルショップを掘り出す旅に出てみてはいかがだろう。

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企画編集:企画編集(順不同、敬称略):光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)、わかめかのこ(株式会社さりげなく)