2023.2.17
【「ダサい」は愛しい】“ダサ良い”お土産にこそ、大切にしたい価値観が宿るらしい
噂の広まり
観光地のお土産屋をのぞくと、味わい深い品物が売られていることがある。やけに重たくてゴテゴテしたデザインのキーホルダーとか、勘亭流の文字で方言が書かれた湯のみ、そういった定番の品から、もっと正体不明のものまで。
誰が、いつ、なぜ、このようなお土産物を作ろうと思ったのだろうか。そんなことを考えながら手に取ってみると、そのダサさがたまらなく愛しく感じられてきたりする。
今回、独自の審美眼を持つ京都の雑貨店・セレクトショップの店主たち3名に協力をあおぎ、なぜかグッときてしまう「“ダサ良い”お土産」を京都のあちこちで探してもらった。そして、各アイテムの魅力や、「ダサいけど良いものとは何か」ということについてお話を伺った。
01「“ダサ良い”は美の序列からの斜め抜け」〈BBABB6・フジタマさん〉
02「文脈を理解したうえでの“ダサい”を大事にしたい」〈ものや・櫻井仁紀さん〉
03「ありそうなものの奥に“ダサ良い”がある」〈あきよし堂 Fook Up・中村あきよしさん〉
01「“ダサ良い”は美の序列からの斜め抜け」〈BBABB6・フジタマさん〉
最初の“ダサ良い”セレクターは、中京区のアート複合施設「kumagusuku」の2階にあるセレクトショップ「BBABB6(ばばあの忘備録)」の店主・フジタマさん。BBABB6は、アパレルグッズやアートワーク、はたまた謎の雑貨まで、フジタマさん独自のセンスで選び抜いた個性豊かなクリエイター達の作品をぎゅぎゅっと詰め込んだショップだ。
「ちょうどダサいに向き合おうと思っていた」と語るフジタマさんは、新京極商店街の老舗土産物屋「越後屋」で、金閣寺をモチーフにしたお土産を中心にセレクトしてくれた。
フジタマさん:京都にいるから、京都のお土産ってあんまり探したことないんですけど、やっぱり金閣寺だろうと。全国津々浦々に金ピカ建築の土産物はありますが、実物が金ピカなのは金閣寺くらいですしね、今回は金閣寺シリーズで揃えてみました。
ーたくさんありますね……! 順番に見せていただいてもいいでしょうか?
フジタマさん:お店を見てたら楽しくなっていっぱい買ってしまって(笑)。まずは定番ものから。キーホルダーと、右の箱型のは、金閣寺の隣に仁王さんが立ってるっていう。
ー見事に金ピカですね。
フジタマさん:ひとつ200円ほどですごく安くて、修学旅行生がよく買っていくそうです。小学生男子が好きそうでしょう(笑)。あとこっちは、銀閣寺とセットで、金閣寺につられて銀閣寺が銀ピカになっているシリーズです(笑)。
ー金閣寺は実際に金色ですけど、銀閣寺はもう実物とは全然違っちゃってますよね。
フジタマさん:勘違いを招くもとになるな……と思いつつ、修学旅行生が「えっ! 銀閣寺って銀色じゃないんだ!」ってがっかりするのもまた一興かなと(笑)。こっちなんかは、金閣寺につられて全部金色になっているシリーズですね。道連れパターンです。
ー京都だけにとどまらず、日本の名所が全部金色になっているんですね。
フジタマさん:こういう置物を集めて、ゴールデンシティを作っても楽しそうだな、なんて。そういや今回の企画で思い出して、家から引っ張り出してきたものがあるんです。90年代ぐらいに面白がって買っていたものなんですけど。
フジタマさん:左のペン立てタイプのは今はあまり売られていないみたいですね。真ん中の姫路城は「白鷺城」って呼ばれるぐらいで本当はすごく白いんですけど(笑)。レトロフューチャー感がありますよね。右のもいいでしょう。この中央にポツンと置かれた唐突な花(笑)。でもこれが無いと落ち着かないんですよ。割と大事なポイント。奥では金閣寺がなぜか空を飛んでいて(笑)。
ー今回選んでくださったものに通じる魅力を感じますね。昔から金閣寺は好きなんですか?
フジタマさん:そもそも金閣寺自体が“ダサ良い”ものだと思うんですよ。金ピカであることで、ちょっと趣が打ち消されているような。それがこういう風にプラスチックで作られてるのが面白いなと。次は、このTシャツですね。
ー発色がすごく鮮やかですね。
フジタマさん:色が派手で、ちゃんとゴールドも使ってあるし、ちょっと個人的に着たいなと(笑)。かなりおしゃれな着こなしができるんじゃないかと思いました。次はこのハンコ入れ。なんでこの形なのかは謎なんですけど、これは普通に可愛い感じがしますね。
ーこれは可愛いですね。もらったら普通に嬉しいかも。
フジタマさん:ですよね。これはかなりしっかりデザインされていて、いいと思います。BRUTUSのお土産特集に混ざっていてもギリセーフじゃないかと(笑)。そして最後、このトランプが今回のイチオシです。
フジタマさん:見てください、このきらめき。目がチカチカするんで、これで神経衰弱をしたら本当に目が衰弱すると思います(笑)。これは1300円ぐらいして割と高めなんですけど、このゴールドっぷりからすると安いかなって。
ーうわ、良すぎる! 表も裏も余すところなく金ピカだ。
フジタマさん:やっぱり金っていいですよね。昔、「ゴールドライタン」っていう超合金シリーズのアニメがあって、ライターなんだけどロボットに変形して悪と戦うっていう。それがすごく好きだったんです。それもあってゴールドに惹かれるのかもしれないですね。
ーフジタマさんにとって“ダサ良い”ものの魅力とはなんですか?
フジタマさん:こういうものって美しさとかかっこよさの軸からちょっと抜けていると思うんです。持っていることで自分の価値が上がるとか、そういうこととは違う良さですよね。
ー美しい、かっこいいという見方から飛び抜けているような?
フジタマさん:そういうところから斜めに抜けるイメージというか。今回思い出したのが千利休と秀吉のことだったんです。秀吉は、ええもんを見抜く千利休を従えてはいたんですけど、美意識の面ではいつも恥をかかされてたんですよね。秀吉は黄金の茶室を作るようなちょっとダサい感覚を持っていて、それは利休にとっては下品で。最終的に秀吉は利休に切腹を命じるんですけど、もし利休が“ダサ良い”感覚をわかってたら切腹させられなくて済んだのではないかって思ったんですよね。
ー“ダサ良い”感覚が歴史を変えていたかもしれない。それはすごく面白い話ですね。
フジタマさん:美や格好良さの序列をちょっと斜めから見る感覚ですね。それがあれば、どこそこのブランドがいいとか、いい車に乗らないと、いい時計を持ってないとみたいな同調圧力から抜けられるかな、という気もするんですよね。
<店舗情報>
BBABB6(ばばあの忘備録)
京都市中京区壬生馬場町37-3 kumagusuku 2F
営業時間:11:00〜17:00
定休日:月・火
https://www.instagram.com/bba_bb6/
02「文脈を理解したうえでの“ダサい”を大事にしたい」〈ものや・櫻井仁紀さん〉
次に“ダサ良い”お土産を選んでくれたのは、以前にも買い付け同行記事でご協力いただいた、古道具屋「ものや」の櫻井仁紀さんだ。櫻井さんは大学でプロダクトデザインを学び、現在はお店とデザイン事務所を両立。日々プロダクトに触れて磨かれた審美眼で、既存の価値観に囚われない“良さ”を発掘、創造している。
今回はもうひとりのメンバー、高垣崚さんとともに、東寺の境内で毎月開催されている「東寺がらくた市」で福助の置物を買ってきてくれた。
ー櫻井さんは普段から旅先でお土産を買いますか?
櫻井さん:プロジェクトでいろんな場所に行くことが多いんですけど、道端に落ちていた石とかゴミみたいな謎の物体を気に入って、自分用のお土産として拾って帰ることはちょくちょくあります(笑)。最近も和歌山県で海沿いを歩いてたら、良いのが落ちてて。
ー一期一会のお土産、良いですね。今回はがらくた市で探してくれたとのことですが、この福助にはたまたま出合ったんですか?
櫻井さん:そうです。実は僕ら、すごく福助が好きで。
ーそれはなぜなんですか?
櫻井さん:デンマークに留学に行ってたんですけど、デンマークの人たちって日本のことがすごい好きで、日本の文化にすごく興味を示していて、「祭りって、あれ何してるの?」って聞かれたんですね。「何してるの?」って聞かれても、わからなくないですか?
ーたしかに、何してるのって言われると……。
櫻井さん:「神輿って何?」って言われると、「たしかに何?」ってなって(笑)。そもそもなんであんな大人数で神輿をA地点からB地点に運んでるんだろうと。知ってるようで実は知らないものっていっぱいあるなって思ったんです。
櫻井さん:それで日本のものに興味が湧いて。日本に帰ってきて買い付けに行った時に、福助人形を見つけたんです。これも神輿と同じ感覚で、見たことあるけどよく見たら何かまったくわからんと思って。しかも形容しがたいダサさがあるじゃないですか(笑)。海外のものでも、日本のものでも、もっとデフォルメされた可愛い人形っていっぱいあるけど、全然そういう感じでもなくて、リアルだし。ものによっては顔がすごくいかついのもあったりして。面白いなと思って福助を集めるようになったんです。
ー櫻井さんは以前から福助人形に愛着を持っていたんですね。
櫻井さん:福助人形って形が結構入り組んでるんで、型を複雑に作らないといけないらしいんですよ。彩色も細かいものが多いんですよね。一見ダサいんだけど、実はすごく大事に作られているところがいいなと。
櫻井さん:これは上も下も陶器で、うまくバネをつけて、ちょっとおもちゃっぽい作りですよね。いろんな福助を集めてきましたが、顔がこんな風に揺れるのは初めて見ました。愛着は湧くけど、こんなに首がぷらぷらで、よく考えたら怖いですよね(笑)。
ー愛らしさと不気味さが共存してますね(笑)。櫻井さんは“ダサ良い”という基準についてどう感じますか?
櫻井さん:“ダサ良い”ってすごいテーマですよね(笑)。でも、みんなちょっとそういうものを求めているところがある気がします。少なくとも僕らはそういうのが好きで。ダサいっていうとネガティブなイメージがあるけど、そこに愛着が湧くと“ダサ良い”になる。それを楽しむのはすごく主体的な行為だと思います。
ー主体的、というと?
櫻井さん:たとえば、名のある作家さんの作品だと、積み上げてきたものというか、すでに評価が出来上がっているので、そこに自分の評価を加えにくいというか。でも、今回みたいなものって自分で評価できる感じがあって、それが楽しくて。
ーなるほど、自分から価値を見出す感じというか。
櫻井さん:そうです。ただ、僕らよく誤解されるんですけど、なんとなくで価値をつけたりダサいって言うんじゃもちろんなくて、そこまでの歴史とか文脈は大事にしたいと思っていて。その上で、遊びたいものは遊ぶというのがいいなと思っているんです。たとえば福助でも、そういう文脈をちゃんと理解して、でもやっぱり見た目はダサいよなっていうのが良いなって個人的に思いますね。
<店舗情報>
ものや
京都市北区紫竹下竹殿町16
営業時間:13:00〜19:00
定休日:月・火・水・木(instagram「今月の営業日」をチェック)
https://www.instagram.com/shop_monoya/
03「ありそうなものの奥に“ダサ良い”がある」〈あきよし堂 Fook Up・中村あきよしさん〉
最後のセレクターは、北野白梅町近くの銭湯「源湯」の2階「あきよし堂 Fook Up」の店主・中村あきよしさん。以前、“ナゾの店”として取材させていただいたこともあるあきよし堂。店には、実家から持ってきたという古着、読んでおもしろかった本、ハマった曲のCD、使い道がいまいち分からない雑貨など……。あきよしさんの興味関心によって集められた品々は、どことなくセンスを感じ、じわじわと刺さる。
今回、あきよしさんは、新京極や金閣寺の土産物屋で“ダサ良い”お土産を探してきてくれた。
ー買ってきていただいたものを順番に紹介してもらっていいでしょうか?
あきよしさん:一つめは伏見稲荷大社のキーホルダーなんですけど。
あきよしさん:3D系は、小学生の頃から好きです。子ども心をくすぐられるというか。割とあるなっていえばあるんですけど、惹かれる自分がいて。いろんな名所のものがありますが、千本鳥居っていうのが改めていいなと思って。この3Dならではの奥行き、先はどこに繋がってるんだ? という異世界感にワクワクします。
ー千本鳥居はたしかに3Dと相性が良いかもしれないですね。この「JAPAN」と銘打ってるところも個人的に好きです。
あきよしさん:作ってるメーカーを見たら東京の武蔵野市で。京都じゃないんだっていう(笑)。最近、京都の歴史に興味があって、秦氏のことを調べているんです。京都の歴史の陰に秦氏ありっていうぐらいで。太秦という地名も秦氏からきてるらしいんですけど、太秦と伏見稲荷大社は秦氏に関係するスポットしては特に有名で、それもあってこれを選びました。
ーその長い歴史がこうやって3Dキーホルダーになっていると思うと、趣深いです。
あきよしさん:次は金閣寺グッズなんですけど、見つけた時に良い意味で脱力しました(笑)。
あきよしさん:先についているこの分厚い、ラメの入った部分。この「金閣寺」の文字がなんとも“ダサ良い”ですよね。ブックマーカーとして使いやすいのかどうかはさておき(笑)。
ーかなり絶妙なラインをついてきたな〜!って感じです。あきよしさんだったら、どんな本に使いますか?
あきよしさん:これはもう、金閣寺関連の本にしか似合わないだろうと(笑)。三島由紀夫の『金閣寺』とか水上勉『金閣炎上』専用かもしれないですね。汎用性は低いかも……ん、いや待てよ。この、本に挟んでも飛び出る存在感。否応なしに旅行の思い出が蘇るという点では、逆にどんな本に挟んでもいいような気がしてきました。やっぱりこれ、旅行のお土産としては最高かもしれないです。
あきよしさん:実はこれ、同じシリーズでハートのネックレスもあったんですよね。そっちと迷ったんですが、ちょっと飛ばしすぎな気もして、今回はこっちに(笑)。企画会議で絶対耳かきも候補に挙がったんだろうな〜、とか想像も膨らみます。
ー会議の様子を思い浮かべると、なんだか愛しさが増す気がします。
あきよしさん:そして最後がこれ。今回の土産探しで一番グッときた一品です。
あきよしさん:これ見つけた瞬間、アジアの神秘を感じました。
ーこれが金閣寺の売店にあったんですか?
あきよしさん:金閣寺はこのわらべシリーズが他にも置いてあったんですが、その中でもこれが一番光っているように感じました。「なんで3連で?」っていうのもあるし、色々突っ込みどころがあるんですよ。
ーわらべのイラストは可愛らしいタッチなのに、フチは割とゴツい感じですね。
あきよしさん:そうそう、そのギャップ。チェーンも手錠っぽくてゴツいでしょう。あと、わらべはパッと見、髪のアフロ感がサイババっぽくも見えて、それで惹かれたのもありましたね。というのも、最近『RRR』という映画を観てから、インドにもハマってるんです。
あきよしさん:ちゃんと両面仕様になっていて、凝ってるんですよ。見ようによってはおしゃれな気もする。何につけたら似合うだろう……女の子がブランドもののバッグとかにつけてたらグッとくるかもしれない(笑)。
ーどれも絶妙なチョイスですね。“ダサ良い”という基準についてはどう思いますか?
あきよしさん:ありそうなものを若干斜め上に超えてくるダサさが良いダサさなんじゃないでしょうか。ありそうなものと高を括っていたものがそこを飛び越えた瞬間に、ハッとさせられるというか。
ー気づく側がいることで、生まれる価値ということですかね。
あきよしさん:受け手がいないとダサいって成立しないと思うんで、受け手との距離感ですよね。時間が経ったり距離感が変わったら、かっこいいがダサいになり得るように、ダサいもかっこいいになり得ると思うんです。難しいですけど、永遠にダサいものって無いんじゃいかと思うんです。普遍的なダサさってなかなか無い。その時々で変化していくものだと思います。ダサいは儚いし、ダサ良いはさらに先鋭化した儚い、なのかもしれませんね。
<店舗情報>
あきよし堂 Fook Up
京都市上京区北町580-6 源湯 2F
営業時間:21:00〜25:00
定休日:月・火(不定休はTwitterをチェック)
https://twitter.com/akiyoshidofu
3名の目利きが選んだ“ダサ良い”お土産を見ていると、自分があり触れたものだと切り捨ててしまっている様々なものの中に、いくらでも魅力を見出すことができるのだということに気づかされる。そして“ダサ良い”感覚に向き合ってみるという行為が、決まりきった価値感に風通しのよさをもたらしてくれることにも気づく。
美的な価値は時代や環境によって常に変化していく。身近なお土産を自分の目でもう一度見直してみることが、思わぬ発見をもたらしてくれるかもしれない。
企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美、長谷川茉由(合同会社バンクトゥ)
撮影(敬称略):牛久保賢二
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