2021.1.25
京都マニアと巡ると、「修学旅行の定番コース」が一変して見えるらしい
噂の広まり
修学旅行先の定番といえば、京都。小中高のどこかで、修学旅行では京都に行った……という人も多いはず。しかし、どの学校も似たような行き先じゃないですか? 京都のことも、神仏のことも、歴史のこともあんまりわからないまま設定された場所を歩いて、結局いちばん面白かったのは産寧坂(三年坂)で試食しまくったことだけ……なんてことも。
こんにちは。マニアックな京都のスポット大好きライターのヒラヤマです。大人になった今こそ、当時の修学旅行コースをまわってみたいと思いませんか? あの頃はわからなかった歴史や土地の成り立ちとの繋がりを知ってから行く清水寺や伏見稲荷大社はきっと格別です。
さらに!京都マニアの視点から見直したら、もっと心惹かれるスポットを見つけられたり、有名スポットでもディープに楽しめる見方を知れたりするのではないでしょうか。
というわけで、今回はさまざまな角度から京都の街を掘り下げるマニアを3人集め、ド定番修学旅行コースをあえて見直しながら座談会をしてみました。伏見稲荷なのにだれも鳥居を見ない、清水寺なのに誰も舞台を見ない……マニアたちの「普通じゃない」着眼点から、あの時はわからなかった修学旅行スポットの楽しみ方、教えます。
〈喋った人〉
以倉敬之(いくら・たかゆき)さん
独自の視点をもつ京都の住民がガイドするミニツアー「まいまい京都」代表。テレビ番組「ブラタモリ」「ヒルナンデス!」「サタデープラス」などに出演。
「まいまい京都」HP: https://www.maimai-kyoto.jp/
玉川典子(たまがわ・のりこ)さん
廃河川探検家。自宅近くの堀川の暗渠(あんきょ)を見たことをきっかけに道を誤り(?)、史料と航空写真を片手に、日々廃河川を探して京都中へ繰り出している。
*暗渠・・・地下に埋設された水路
HP: 河の行方
烏賀陽百合(うがや・ゆり)さん
日本庭園案内人・庭園デザイナー。庭園の見方や楽しみ方を提案。ニューヨークやグランドセントラル、新宿、京王プラザホテルのロビーで日本庭園を作る。著書に『一度は行ってみたい京都 絶景庭園』(光文社)、『京都もてなしの庭』(青幻舎)、『美しい苔の庭』(エクスナレッジ)など。
Facebook: 烏賀陽 百合 庭とガーデニング
instagram: @yuriugaya
スポット① 伏見稲荷
・伏見街道を歩く時は「橋の跡」に注目
・頂上には巨石信仰の磐座(いわくら)が
・「お塚」はフリーダム民間信仰
ヒラヤマ:このルートだと、やっぱりメインは伏見稲荷大社ですよね。朝イチで新幹線で京都駅について、市バスか貸切タクシーで伏見稲荷大社、近くの食堂でお昼食べたあとに歩いて東福寺ってとこでしょうか。
以倉:伏見稲荷といえば……川ですよね。玉ちゃん。
玉川:伏見稲荷といえば川ですよ。
ヒラヤマ:いや……普通は鳥居なんですよ(笑)。
玉川:伏見稲荷への道として、五条通から伏見を結ぶ「伏見街道」があるんですが。
ヒラヤマ:Googleマップでは「奈良街道」と書かれていますね。京と奈良を結ぶいくつかのルートのうちのひとつなのかな。
玉川:伏見街道を横切るようにして、かつては東山から鴨川に向かって何本も川が流れていたんです。川にはそれぞれ橋がかけられていたんですが、やがて埋め立てられてしまったり、道が整備されたりして多くの橋は不要になりました。でも、橋の跡だけは今も残っていたりするんです。
ヒラヤマ:へー!
玉川:伏見街道と九条通りがぶつかるところにある「伏水街道・第二橋(通称 二ノ橋)二ノ橋」なんかは、道に柱だけが立っています。
玉川:東福寺の中門の近くの「三ノ橋」は、現行法に合わせて拡幅された橋の内側に、古い橋の欄干が残っている。
玉川:藤森神社の近くには「伏水街道・第四橋(通称・四ノ橋)」があるんですが、実は「三ノ橋」と「四ノ橋」のあいだにも昔は川があったりしてですね。私にとって伏見といえば、鳥居を見に行くんじゃなくて橋の跡や水流の跡を辿って、河川の名残を見に行く場所なんです。
以倉:そういえば、伏見稲荷大社の中にある末社「熊鷹社(くまたかしゃ)」敷地内の新池は、なにかの川の源流にあたるんではなかったですっけ。
玉川:そうみたいなんですよね。ただその川の流れが今どこを流れているのかはわからないんですよね……。
ヒラヤマ:(伏見稲荷大社なのにぜんぜん鳥居の話が出えへんな……)。
以倉:烏賀陽さん的には、伏見稲荷大社っていかがですか?
烏賀陽:日本には巨石信仰があるじゃないですか。伏見稲荷にもそれがあって、頂上あたりの大石にとってもパワーがあるなと思っていて。
ヒラヤマ:それって「磐座(いわくら)」ですよね。神が降り立つ場所として崇められている巨石、左京区の地名「岩倉」の由来でもあります。これは知らなかったんですが、伏見稲荷にも磐座があるんですか?(そしてやっぱり鳥居の話は出ない……)
以倉:「御剱社」のあたりですかね。伏見稲荷には、ちょうど先ほど言った「熊鷹社」の新池のところに断層が走ってて、山と丘陵の境目になっているんです。その境目から上は岩盤がせり出しているところも多く、その磐座の上に祠が乗っかっているんですよね。
烏賀陽:伏見稲荷といえば千本鳥居が有名ですが、元々はその鳥居が立っている伏見山自体が信仰の対象だったんですよね。
以倉:信仰というキーワードが出ましたが、それでいえば伏見稲荷はやっぱり「お塚」がいいですよね
ヒラヤマ:「お塚」?
以倉:稲荷山には、いたるところで石を祀っていたり、「ミニマム神社」がつくられていたりするんですよ。民間信仰の塚をある意味、参拝者が勝手につくっちゃうんです。「●●大神」って彫ってある石のまわりに、小さい鳥居がたくさんあるのとか、見たことありません?
ヒラヤマ:あー!あー……あれか!
以倉:「運動大神」とか「脳天大神」とか、変わった名前が塚についてます。「麻雀の神様」と呼ばれた阿佐田哲也を祀る「阿佐田哲也大神」もあって、祭典もおこなわなわれているんですよ。
ヒラヤマ:阿佐田哲也って、あの「坊や哲」……!?
*坊や哲:星野泰視による麻雀漫画『哲也-雀聖と呼ばれた男-』の主人公「阿佐田哲也」の通り名。
ヒラヤマ:そもそも、そういう小さい社ってめちゃくちゃ数ありません?あれってみんな民間信仰なんだ。
以倉:そうなんですよ。稲荷山の大らかさが出ているなと思うんですが、伏見稲荷大社自体もどれくらいの数があるか把握できてないんじゃないかな。よく見ると別の宗教法人の塚や社もけっこうあったりして、ものすごくフリーダムなんですよ。
ヒラヤマ:無秩序といえばそれまでですが、それだけフリーダムな様相を呈しているのは昔から伏見稲荷が人を集めていたってことですもんね。
玉川:そうですよね。別に立地がいいってわけでもないのに、それでも人を引きつけるパワーがあったんでしょうね。
スポット② 東福寺
・境内を貫く天然の川
・重森三玲の庭、当時はモダンすぎてアンチが
・革新的な庭は「永代供養」だった!?
ヒラヤマ:東福寺はどうでしょう。先ほど玉川さんがお話ししてた「三ノ橋」が跨いでいる川は、東福寺から流れ出てきている水なんですよね。
玉川:「洗玉澗」という川ですね。上賀茂神社のように人工的に造られた川ではない天然の川が境内のど真ん中を流れている寺社って実は珍しいんです。
以倉:東福寺の境内を走る様子は、川っていうよりはむしろ渓谷ですもんね。
ヒラヤマ:紅葉が有名ですが、元々は桜の名所だったんですっけ。
以倉:桜があると花見の客で境内が騒がしくなって、修行の妨げになるからって当時の僧・明兆さんが切らせたって伝説をよく聞きますよね。桜がないぶん、紅葉を求めて秋にはものすごい人がやってきますが……(笑)。
ヒラヤマ:京都に住んで10年になりますが、いまだに紅葉シーズンの東福寺には行ったことないや……。紅葉もありますけど、東福寺といえばあの庭じゃないでしょうか。
烏賀陽:作庭家・重森三玲の庭ですね。今でこそモダンな庭としてInstagramでも人気のスポットですが、彼があの庭をつくったのは1939年。モダンすぎるとして当時はずいぶん賛否両論だったみたいですよ〜。
ヒラヤマ:たしかに「寺」というイメージから飛び出た感じはありますよね。でも、あの戦前のおしゃれでモダンな感じ、私は好きだなあ。あれって、どういう経緯で庭をつくるに至ったんでしょう?
烏賀陽:1934年の室戸台風が関西を直撃して、京都の寺社仏閣も甚大な被害を受けたんです。お庭ももう大変なことになっちゃって。そこで重森三玲が、全国の庭園をまわって自費で測量調査したんです。
ヒラヤマ:庭の詳細な図面なんて当時はないでしょうしね。
烏賀陽:測量をきっかけに東福寺の当時のご住職となかよくなって、庭をつくってほしいって依頼されたそうなんです。台風の被害が甚大で、東福寺としては再建のためのお金を出せない。重森は無名だったので名前を売るチャンスだった。
ヒラヤマ:お互いのメリットが一致して、チャリティ的な庭づくりになったんだ。
烏賀陽:そういう背景なので、あの庭で使われている石は、元の庭にあった廃材の再利用なんですよ。もちろん仏教的な「ものを大事にする」という意味もあるんでしょうけども。
ヒラヤマ:予算がかけられないから、新進気鋭のアーティストに自由につくってもらう……って図式、現代のクリエイティブの現場でもよく見られる光景ですよね。で、あんなにアバンギャルドな庭ができあがってきたと……。
以倉:普通はそんなことできないじゃないですか。重森の度胸がうかがえますよね。「タダでつくるんやし文句は言われへんやろ!」みたいな(笑)。
ヒラヤマ:当時の住職はびっくりしたでしょうねえ〜。どエラい庭ができとるー!!って。
烏賀陽:でも、真新しさがウケてものすごく人気が出たんです。石と苔でつくる市松模様や円柱で北斗七星なんて、今までの庭にはなかった。「永代供養」という名目での、ほぼ無償での作庭だったんですが、沢山の人が観に来たのであとになって東福寺は金一封を重森に送ったそうなんですよ。
一同:(爆笑)
烏賀陽:お寺側からのデザインに対する条件がなかったのもあると思いますが、あれだけ新しい庭をつくれたというのは、重森自身が自分のクリエイティブにすごく自信があったからだと思うんです。あの庭に対していまだにネガティブな意見を持っているご年配の庭師さんもいるんですが、それだけたくさんの人の注目を浴びていたからこそだと。
ヒラヤマ:さて、千本鳥居での撮影にうつつをぬかす人々を尻目にずんずん伏見山を登り、巨石にお塚に……とまったく違う見方をしている我々の班です。川に夢中な玉川さんに至っては境内に入ってすらいない(笑)。2日目も王道コースですよ。
以倉:清水寺といえばやっぱり……!
玉川:川なんですよ〜!
ヒラヤマ:やっぱりか〜!清水の舞台には見向きもしない!
スポット③ 清水寺
・清水寺の近くにはかつてたくさんの川があった
・音羽の滝から下流までのあいだにはダムがある
・手水鉢の下にあるナゾの四方仏
玉川:伏見稲荷大社の川もそうですが、京都・東山の一帯はたくさん川が流れていたんですよ。暗渠化していますが、かつては菊渓川や轟川という川もありましたし、あの霊験あらたかな音羽の滝も、音羽川となって東山に注いでいます。
ヒラヤマ:清水寺周辺は廃河川マニア垂涎のスポットというわけですね。烏賀陽さんはいかがでしょう?
烏賀陽:私が清水寺で気になっているのは、あの……手水鉢があるじゃないですか。
以倉:手水鉢っていうと、ちょうどお金を払って本堂に入る前のところに置いてあるやつですか?
烏賀陽:そうですそうです!あの手水鉢なんですが、実は鉢の下、その基台には、四隅にフクロウが彫られた四方仏の手水鉢があるんですよ。
ヒラヤマ:四方仏って四角い石の各1面ずつに仏様が彫られているやつですよね。
烏賀陽:手水鉢の下を覗き込まないといけないので、混んでると見れないんですよね。私も行った時暗くて、這いつくばって覗いたんですけど真っ暗で……。掃除のおっちゃんが「朝イチ来たら見せてあげる!」って言ってくれてたんですけど、結局行けてないんです。
ヒラヤマ:へええ。四方仏も珍しいですが、四隅のフクロウはもっと珍しいですね。どういう意味があったんでしょうか。
烏賀陽:迦楼羅なんじゃないかという説もあるみたいですけどね。でも、さらにおもしろいのが、この四方仏自体はレプリカなんです。
ヒラヤマ:え〜!?
烏賀陽:本物は千利休にあげたんですって。で、めぐりめぐって今は石川県にあるらしいです。元々、四方仏自体は層塔……ってご存じですかね。
以倉:本来はお釈迦様の遺骨を納めていた「ストゥーパ」という墳墓のことですよね。日本では「卒塔婆(そとば)」と書かれ、それがやがて屋根が重なっている塔状の建造物を指すようになっていますが。
ヒラヤマ:東寺の五重塔とかも、でっかい層塔ですよね。
烏賀陽:その四方仏ですが、元々は仏塔の基台になっていたものらしくて。縁起がいいから利休が欲しがったのかもしれません。利休が自害したあと千家は取り潰しになったんですが、子どもたちは前田家に保護されて、その際に四方仏も石川へ。現在は前田家が代々供養されている尾山神社(金沢市)にあるみたいです。
ヒラヤマ:へええ。戦国時代の動乱の痕跡が清水寺にも……。って、やっぱりふたりとも清水寺のメインどころをスルーしてるんですね(笑)。
スポット④ 清水寺周辺の土産物店
・清少納言も「騒がしい」と苦言
・江戸時代に「たくましい」お土産が
・祇園のリアルな歓楽街もアリ
ヒラヤマ:そういえば先日、ものすごく久しぶりに清水寺に行ったんですよ。昔はいかにもな「土産物屋です!」っていうお店ばっかりだったんですが、ずいぶんオシャレなお店も増えてました。こう、清水寺やら高台寺やらに来た観光客を待ち構えている感じが……(笑)。コロナ禍とはいえ、やっぱりあのへんは賑やかでしたね〜。
以倉:けっこう様変わりしましたよね。ホテルも多いし。たしか「ザ・ホテル青龍 京都清水」の屋上はルーフトップバーになってます。あのへんの賑やかさは昔からですね。枕草子にも「さわがしきもの」として参拝の喧騒についての言及があるくらいですから。
玉川:江戸時代のガイドブックを見ていた時に見つけたんですが、大谷本廟の眼鏡橋のよこに売店が描かれてたんです。名物が「めがねもち」「めがねせんべい」って。
一同:(笑い)
玉川:なんてたくましいんだ京都人!とおののきました(笑)。
ヒラヤマ:いつの時代もお土産の本質って変わらないんですねえ。
以倉:この工程表を見ていると思うんですが、寺社仏閣が多すぎません?僕が中高生で修学旅行に行くなら、ちょっとお寺ばっかりで嫌になっちゃうかもなあ。
ヒラヤマ:以倉少年だったらどこに行きたいですか?
以倉:遊郭の跡とかね……。
ヒラヤマ:遊郭跡を見たい中高生、渋すぎるでしょ!
以倉:やっぱり街の生っぽい部分をみたいですよね。
ヒラヤマ:うーん、でも、たしかに。だったら私は祇園南にある「花七軒」のエリアが好きですね。あのへんは確か青線地帯だったんじゃないかな。
以倉:祇園も真ん中じゃなくて端っこがいいですよね。安井のあたりとか。ラブホの需要が落ち込むにともなって、ラブホテルとして建てられた建物が普通のホテルに使い回されたりしてておもしろいですよ。口コミを見ると「お風呂が広くて癒やされました♪」とか書いてたりして。やっぱり街は生きものやなぁと。
スポット⑤ 金閣寺周辺
・塔頭が穴場スポット
・京都の西側は暗渠がアツい
・雅なだけじゃない。多様性のある京都の姿も
ヒラヤマ:新京極などの繁華街が近くにないぶん、修学旅行で京都の西側を選ぶというのは、比較的シブいチョイスな気がするんですよね。金閣寺はわかりやすく金ピカだから盛り上がるのかもですが、妙心寺や大徳寺は中高生が見てどれだけ面白さがわかるのかと……。
以倉:あの辺はいい庭が多いですから、おもんないなーって班行動から外れて偶然入った塔頭(たっちゅう)の庭に見惚れる……なんてことがあれば最高ですね。
*塔頭・・・本寺の境内にある小寺
烏賀陽:いいですよねえ。大徳寺や妙心寺の塔頭はええお庭が多いんですよ。大徳寺やったら「龍源院」「瑞峯院」、妙心寺やったら「退蔵院」「桂春院」とか。年中空いてますし、修学旅行生もお寺自体にはいくんでしょうけどなかなか塔頭までは見ないんですよね。自分だけの花園っていうか、ふらっと立ち寄った先で塔頭のきれいな庭を見つけられたら素敵な体験ですよ〜。
ヒラヤマ:私も先日、写真の展示で仁和寺の塔頭に行ってきたんですが、塔頭の庭ってものすごくきれいですよね。そもそも塔頭って引退した住職の住まいなのに、なんであんなに豪華絢爛なんでしょう?
烏賀陽:塔頭寺院が戦国大名の菩提寺だからなんですよ。ファミリーチャーチ的な。戦国大名たちが塔頭作りにお金をつぎ込むから、個性も強いんです。
以倉:お寺そのものとお金の出所が違うから、中心伽藍がなくなっても塔頭は無事ってこともあるんですよね。たとえば相国寺は、本堂にあたる仏殿は戦国時代に焼けてからずっとそのままなのに、塔頭の金閣は焼失してもすぐに建て直しています。
ヒラヤマ:ほー。
以倉:やっぱり何事もそうですが、お金の出所があるところが残っていくし、なにかあっても復興しやすいんですよ。京都の歴史も、単なる物事の連なりとしてではなくて、経済の視点から見てみるとおもしろいですよね。
烏賀陽:そうですね。権力者がいるところはきれいになりますよね。二条城も家康がいなかったらああではなかったでしょうし。
以倉:京都はお金で見るほうがおもしろいですね。
烏賀陽:文化はあとから生まれていきますからね。
ヒラヤマ:でもその結果、川は埋まっていくんじゃ……?
玉川:いえ、私は埋まってたほうがいいんですけどね!「廃河川」探検家なので!
一同:(爆笑)
玉川:それに廃河川界隈的には今、西がアツいんですよ!
以倉:それどういう界隈?(笑)
玉川:天神川通沿いを流れる天神川は昭和20年代までは流れていないですし、元々そこには御室川が流れていました。水害によって河川の大改修が起きたんです。
ヒラヤマ:天神川ってまたマニアックなチョイスを……!西大路通よりも西側だから、存在を知らない京都在住者も多いですよ!
玉川:あと、堀川も……アツい!二条城の手前で暗渠に消えていく様がめっちゃアツいんです!
一同:(笑い)
玉川:元々堀川の水は二条城の堀に繋いで、堀をきれいにして西高瀬川に流す予定だったみたいなんです。それが京都市のお金が足りなくて暗渠化へ……。結局、二条城から暗渠化した堀川は上鳥羽口まで地下を走り続けるんです。私は金閣寺にいく暇があったら単独行動で川を遡りたい……。
ヒラヤマ:班の子が困るからやめてあげてください(笑)。「先生!玉川さんがまたいません!!」って。
以倉:「どうせ源流に行っとるんや!」で済むから大丈夫ですよ(笑)。
一同:(爆笑)
ヒラヤマ:金閣寺の北側、それこそ天神川の上流のほうはある意味、京都のディープなエリアだと言われていますよね。ネットで正誤あいまいな情報が飛び交っているのもありますが。
烏賀陽:それでいうと私、あのエリアの学区だったんですよ。
ヒラヤマ:へー!
烏賀陽:あのエリアっておもしろくて、昔からそこに住んでいる人だけじゃなくて、近年の宅地開発によって引っ越してきた子、在日コリアンの子、周辺のお寺の子、教会も比較的近いのでキリスト教徒の家の子……いろんなルーツや家庭環境の子どもたちが一緒の空間で学んでいたんです。そこで暮らしながら「多様性」というものに触れてきたというか。
以倉:「京都は排他的」とよく言われますが、実はいろんな人たちが暮らしながらひとつの街を形成していて、多様で混沌とした部分も多いんですよね。
ヒラヤマ:以倉さんがよく「境界にこそおもしろいものがある」ということですよね。境界エリアにはいろんな人やモノが集まっているという……。
以倉:いわゆる「修学旅行的」なスポットは実は京都のごく一部にしか過ぎず、混沌のなかにこそリアルな街のおもしろさが潜んでいます。清濁併せ呑んだ京都の姿こそ学んでほしいポイントでもあるし、パッと見るだけでは見えない京都を通じて、自分たちの社会を考えるきっかけに繋がってほしいなと思いますね。
玉川:そうそう。川も見えない・見えなくなった部分が面白いんですよ……。
ヒラヤマ:やっぱり川かあ〜!!
定番コースもマニア的視点で見ると全く違ったものに
京都案内人、廃河川マニア、日本庭園案内人……、それぞれ「これおもろいやん!」の見方が違う3人がひとつのスポットにあーだこーだ話すことができるように、京都ってとっても多角的で多層的。
伏見稲荷大社だって「鳥居がいっぱい〜!映える〜!」なスポットだけではないのだ。東山の山々がつくる水の流れや断層が生む自然の様相、民間信仰がごっちゃになったフリーダムな稲荷信仰の性格など、いちスポットにさまざまな要素がある。
今回はメンバーの性格上、スポットのメインどころに立ち寄るどころか外の川を辿りはじめるなどカオスなルート提案となりました。でも、京都定番スポットの新しい一面を知ることができる濃密なルート。
ぜひ一度、今回の座談会を参考に京都のさまざまな場所をめぐってみてください。これって何?というナゾが多すぎて、発見したが最後、ますます京都が好きになってしまうらしいですよ。
企画編集:光川貴浩、河井冬穂(合同会社バンクトゥ)
写真:上田 広樹(合同会社バンクトゥ)
イラスト:ヒラヤマヤスコ