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紅葉のウワサ、教えてください!観光、庭園、植栽植生のプロが勢ぞろいの紅葉情報交換会2021

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

井戸端会議

京都のキラーコンテンツのひとつ、紅葉。毎年のように“最新”や“穴場”の情報が更新され、京都観光の定番すぎるがゆえに、どうせどこも混んでいる……と半ば諦めてはいないだろうか。

そんな時こそ人から教わる噂話。京都の紅葉にまつわる最新の噂を求め、あらゆる角度から京都に詳しい達人たちへご協力を依頼。紅葉の噂を持ち寄る「京都・紅葉情報交換会2021」を開催した。

ご協力いただいたのは、京都庭園本界のヒットメーカーである烏賀陽百合さん、全国の森を巡った経験をもつ森の案内人の三浦 豊さん、京都検定で4年連続最高得点を獲得した京都マニアの吉村晋弥さん。多方面でご活躍されるお三方に、今こそ行っておくべき場所や、知ると倍面白くなる鑑賞ポイント、どうも最近ここがアツいらしいなど、京都をくまなく見てきたからこそ知る紅葉の噂を存分に語っていただいた。タメになるかつ超マニアックな情報交換会の様子をご覧あれ。

 

〈お話を聞いた人〉※五十音順


烏賀陽百合(うがや・ゆり)さん
日本庭園案内人・庭園デザイナー。店舗やホテルの日本庭園を手がけるほか、庭園の楽しみ方を提案するべく講座やツアーを開催する。著書に『美しい苔の庭ー京都の庭園デザイナーがめぐる』など。
Facebook:https://www.facebook.com/ugayagarden
烏賀陽さんがガイドするツアーはこちらから

 


三浦 豊(みうら・ゆたか)さん
今まで訪れた日本の森林や自然の名所は3000カ所以上。2020年から毎週木曜日に、森のサロンというオンラインサロンを仲間とはじめる。京都をはじめ、日本全国で案内を行っている。著書に『木のみかた 街を歩こう、森へ行こう』。
HP:https://www.niwatomori.com/
三浦さんがガイドするツアーは上記HPまたはこちらから

 


吉村晋弥(よしむら・しんや)さん
気象予報士・京都観光おもてなしコンシェルジュ。これまで400ヵ所以上の京都の観光スポットを訪れ、京都検定の最高峰である1級に4年続けて最高得点者として合格。自他ともに認める京都マニア。
HP:https://www.kyoto-tabiya.com/
吉村さんがガイドするツアーはこちらから

“完全予約制”の紅葉

ー今日はよろしくお願いします。早速ですが、京都の紅葉について最新の噂話ってありますか?

吉村さん:いろいろありますが、今年でいうとまず叡山電車の二ノ瀬にある白龍園がおすすめです。昨年は大雨の影響で叡山電車の市原駅から先が運行休止していたのでアクセスが悪かったんです。

三浦さん:鞍馬が復活しましたもんね。

貴船や鞍馬の手前の穏やかな山あいに位置する白龍園。今回何度か話に登場した、達人たちのお墨付きスポット。

烏賀陽さん:もともと白龍園は人数制限があり当日に予約券を発売していたんですが、全て往復はがきでの事前予約制にされたようです。毎年、出町柳駅に券を求める行列ができて大変だったんですけど、事前予約なので混むことなくゆったり楽しめるはずですよ。

吉村さん:最近コロナもあってか予約制のところが増えましたよね。一乗寺にある圓光寺も今年から紅葉シーズン(2021年11月12日~12月5日)は完全予約制になったので、予約さえとれればゆっくり観れると思います。あそこもめちゃくちゃ人気スポットなので。

予約制になった圓光寺。人気スポットの耳より情報はありがたい。

烏賀陽さん:同じく左京区・高野の瑠璃光院も予約制にされたようです。春は全て事前にネットで受付をしていたので、ずいぶんゆったり観れました。以前は紅葉が机に反射して映る書院のところで係の人が横で秒数を数えていたんです。15秒経ったら、はい交代って(笑)。予約のおかげで今はそれもなくなって。

三浦さん:15秒って絶妙ですね(笑)。

吉村さん:あとこれはJR東海さんなんですけど、ライトアップの予約プランで、ここから申し込んだ方だけが行ける貸し切りプランがあるようです。これなら混まず、確実に楽しめますよ。

JR東海 秋の特別拝観

通常では公開していない時間帯や、貸切ライトアップで観ることができるプランも。詳細は公式サイトを要チェック。

烏賀陽さん:今や紅葉も課金制(笑)。建仁寺も予約プラン限定で夜間拝観ができるんですね。一般向けにはされていないから貴重かも。

三浦さん:建仁寺の潮音庭のモミジ、きれいですもんね。下がドウダンツツジなのでダブルで楽しめる。

烏賀陽さん:構成がいいですよね。モミジにドウダンツツジと苔。ちょっと赤くなる時期も遅いですし。

吉村さん:僕もまだすべて調べきれていませんが、こういう予約情報は必見です。

入園料200円で楽しめるオアシス

吉村さん:穴場っていうとそれこそ、今日の会場でもあるポテル近くの梅小路公園。

三浦さん:梅小路公園はめちゃくちゃいいです。朱雀の庭最高。入園料もたったの200円ですし。

吉村さん:サラリーマン時代、休みのたびに来て昼寝していました(笑)。

3人が太鼓判をおす梅小路公園 朱雀の庭。

三浦さん:梅小路公園は混んでいますか、朱雀の庭を境に人が激減しますよね。この庭で僕が注目したいのがハゼの木。ハゼって肌が弱い人はかぶれるので庭園にはあまり植えられないんですけど、ここでは人が近づけない築山の底に植えられているんです。距離があるからかぶれようがないし、鮮やかさでいえばモミジを凌駕するほどだと僕は思います。日当たりもいいので枝振りも立派に広がっていてすごくきれいです。庭でハゼを植えるって攻めたなと。

烏賀陽さん:きれいですよね。紅葉はモミジだけじゃないっていう。ここのお庭を作庭した井上剛宏さんという方が学生時代の先生なんですけど、ハゼなどの植栽にはこだわったとおっしゃっていました。

三浦さん:やっぱりそうなんですね。ハゼの木があるお庭ってなかなかないですもんね。ハゼって実は、草や竹が生え茂る「やぶ」といわれるようなところに結構自然に生える木なんです。なので庭木のバリュー的には少し弱めだったりするんですけど、それはあくまで人間の解釈であって。日本人はもともとそういう自然に生えるものに美を見出していたので、すごく価値があるように思います。

築山から見下ろす形で望む、真っ赤に染まるハゼの木。紅葉はモミジだけではないのだ。

吉村さん:時期的にはいつ頃色づきますか。

烏賀陽さん:モミジよりちょっと早いのでもうそろそろかと思いますよ。

吉村さん:これは気付いていなかったです。朱雀の庭はいつもカエデの時期に行くのですが、少し早めに行ってみようと思います。

烏賀陽さん:ここのお庭は本当にグッドデザインですよね。それこそ建仁寺の潮音庭を作庭された造園家の北山安夫さんの石組みがあったり、滝も想像以上に大きい。梅小路公園を手掛けている庭師の集団がいわば ドリームチームみたいな感じで。京都迎賓館のお庭もドリームチームで作庭されたみたいです。まさに京都の庭師さんの底力が集結したような感じですよね。

三浦さん:ただ、朱雀の庭は作庭されたのが平成6年と、どうしても歴史がないから弱いんですよ。庭の審美眼というのが残念ながら今はほとんどなくなってしまっているので。

烏賀陽さん:みんなが同じところに行ってしまうわけですよね。

三浦さん:いい庭は新しくてもいいんですけどね。

見つけたらラッキー!ワイルドモミジを探せ

三浦さん:哲学の道沿いにある和菓子屋、叶 匠壽庵さんあたりの橋に1本モミジが生えているんですけど、そのモミジがなんと石垣から生えているんですよ。どう見ても人が植えようないところから生えている。なぜかというと、そこは用水路で水位が一定なんですよね。常に一定の水があり、増水することがないのでモミジにとって最適な環境になっているというわけです。モミジはそもそも川が削った地形の岩の急斜面に生えるような木なので、ここも同じ仕組み。こぼれ種で生えたいわばワイルドモミジなんです。

一同:ワイルドモミジ……!


紅葉を見る場所はお寺や神社だけではない……モミジもワイルドだが、達人の鑑賞術もワイルドだ。2枚目は叶 匠壽庵の入口を遠くから撮った写真。奥に見える橋の付近にワイルドモミジが。

三浦さん:もともと京都には人が住む前からモミジはいて、人が植えなくてもそこかしこに生えるんです。加えて自ら生える場所となると環境が合っているので、元気できれい。だから自然に生えるモミジは要チェックです。石垣の途中とか塀沿いとか絶対植えようがなさそうな場所にいて、探すと結構あるんですよ。

吉村さん:そういうモミジの自生って京都だからこそということはあるんでしょうか。

三浦さん:モミジは日本中めちゃくちゃ種類がいるんですけど、イロハモミジに関していうと、水が多いところが好き。森に生えているのを見たら水脈が分かるともいわれています。ただし、水がよどんでいたらダメで新鮮な水が流れているところなんですよね。その点京都は地下水もあって、環境として適しているのだろうと思います。

烏賀陽さん:圓徳院もたしか地下に水脈があって水が豊富なので、毎年絶対きれい。水が豊かなところのモミジは真っ赤になるんですよね。

モミジの形に秘められた理由

吉村さん:モミジには新鮮な水が必要不可欠ということなんですね。それってたとえば人工的に水をまくのではやはり限界があるんでしょうか。

三浦さん:水はけの問題が出てくると思います。モミジの葉っぱって切れ込みがあるじゃないですか。あれってなぜああいう形をしているかというと、水滴を落とすためなんです。朝露をキャッチし、切れ込みに沿って一滴一滴根元から確実に落とす。

適度な水分を保つために理にかなったモミジの形。知れば倍面白くなる三浦さんのマニアックな情報に終始感激。

吉村さん:なるほど。よくできていますね。

三浦さん:要は水が溜まるのがよくなくて、きちんと逃げていかないとダメなんです。葉っぱに適度な水分を与えることが大切なので、木の根元にじわじわ与えてもあまり意味がない。だから葉っぱに水滴を生み出す朝露や霧とかはモミジにとって最高なんです。

吉村さん:それだと亀岡とか丹波のモミジがきれいなのは納得ですね。きれいな川が流れて霧もよく出る。

三浦さん:きれいなモミジがいるところはよっぽどフレッシュなんだと思います。

烏賀陽さん:白龍園に行くとすごく感じます。空気も水も超フレッシュ。

美しい紅葉の裏に職人の仕事あり

烏賀陽さん:あと定番ではあるんですけど、嵯峨野にある祇王寺のモミジと苔がすごくきれい。苔にいたっては以前よりさらにきれいになっていて、なんでだろうと思っていたら、瑠璃光院と同じ庭師さんが担当になったそうなんです。その方はご自身でも苔オタクとおっしゃるほどで、苔がきれいになるためならなんでもしますって。瑠璃光院もその方が入ってからさらにきれいになりました。

三浦さん:職人の鏡ですね。かっこいい。

自称・苔オタクの庭師さんによる祇王寺の庭園。一面に広がる苔はおおよそ20〜30種類ほどあるというから驚き。

烏賀陽さん:その方はモミジの剪定にもすごくこだわりがあって。ハサミで切ると鉄分で枝が悪くなるから、人が見えるところのモミジはすべて手折されているそうなんです。だから祇王寺も瑠璃光院もあんなにきれいなんだなと。

三浦さん:そのこだわりはすごいですね。

烏賀陽さん:瑠璃光院では、枝木も地面に着くか着かないかくらいのすれすれを計算して剪定していらっしゃるらしいですよ。

地面に覆いかぶさるように色づく瑠璃光院のモミジ。その裏には庭師さんの職人技があったのだ。

水脈で辿る街中のモミジ

吉村さん:紅葉の時期ってみなさん東山か嵐山というイメージがあるので、意外と街中が穴場だったりしますよね。地下鉄の烏丸沿線とか。御所東あたりでは梨木神社や廬山寺とか。

三浦さん:やっぱりこれも水脈で、下鴨神社から京都御苑、二条城とこの一帯が圧倒的に水が多いんです。御所は陛下が住んでいらっしゃるし、聚楽第があったとされるあたりとか。高野川からくるこの水脈が特に豊富なんですよ。

烏賀陽さん:なるほど。下鴨から御苑、二条城をつなぐ水脈なんですね。たしかに仙洞御所とかも水が豊かだなと。

吉村さん:昔はこの辺りにたくさん井戸があったと聞きました。京都三名水といわれるうちの2つが集まっていますしね。

三浦さん:そうなんですよ。この水脈を受けて、京都御苑にある母と子の森の木々がワサワサで最高です。ここも本当にモミジだけではない紅葉をすごく感じてもらえると思います。モミジはコミュ力高めというか、いろんな木と一緒に生えるのが好きなので、木々の共存を楽しめると思いますよ。

烏賀陽さん:街中にも意外と鑑賞スポットがありますね。

三浦さんおすすめの母と子の森では、モミジのコミュ力が高い様子を。

京都通にはもはや常識!?塔頭寺院はマストでチェック

烏賀陽さん:妙心寺の塔頭寺院のひとつ、桂春院はモミジと苔がすごくきれいで、お抹茶とお菓子をいただけるんですけど本当に人がいない(笑)。今年は夜のライトアップもされるようです。

三浦さん:たしか非公開のお茶室があるんでしたよね。

烏賀陽さん:妙心寺はお坊さんがお茶をするのを禁止していたので、桂春院でもお茶室が隠れているんです。ただ、一見わからない場所にあるのに、飛び石の露地が見えるからバレバレやんって(笑)。隠しているけど、実は持ってるねんってちらりと見せているところも面白いなと思います。

4つの庭園がある桂春院。方丈から見下ろすことができる真如の庭と思惟の庭は「上から見えるお庭って意外と少ないのでおすすめ」と烏賀陽さん。

吉村さん:僕、同じく妙心寺の塔頭寺院で大法院も好きです。ここもお抹茶がいただけるのですが、12月からお寺が修行の期間に入るので、11月30日でバシッと拝観が終わるんです。12月1日、2日が土日だったとしてもやめられるんですよ。

春と秋のみ公開される大法院。塔頭寺院にこそ、こうした穴場が眠っているのだ。

烏賀陽さん:もうちょっと……っていう思いもありますよね。ただお寺さんの本分なので正しい姿という気がします。桂春院とセットで楽しめますね。

他にもお抹茶をいただける場所でいうと、東山にある泉涌寺の塔頭寺院、雲龍院。ここのモミジはそれこそワイルド系です。

吉村さん:雲龍院にはいろんな窓があり、額縁から眺めるような景色が楽しめますよね。

泉涌寺の塔頭寺院、雲龍院。椿、灯籠、楓、松を切り取った景色が映る「しきしの窓」は圧巻。

烏賀陽さん:泉涌寺は御座所庭園も紅葉がきれいで上品なお庭なので、合わせて回るのがおすすめです。

三浦さん:御座所庭園すごいですよね。

烏賀陽さん:ザ・ロイヤルな感じで。今でも天皇さんが新しくなられたら必ず挨拶に来られるそうですよ。

泉涌寺の御座所庭園。烏賀陽さんのおすすめポイントは、泉涌寺型といわれる雪見灯籠。普通は六角形である火袋が八角形になっている。さすがプロの視点。

植物園に眠るストーリー

三浦さん:京都府立植物園に半木(なからぎ)神社という織物の神様が祀られている神社があるんです。はっきりとした創建年代は不明とされていますが、千年以上前とか相当古いらしく。

烏賀陽さん:そんな歴史のある神社が。

三浦さん:植物園の池の真ん中に、半木神社を中心に広がるなからぎの森といわれる森があるんです。この池というのは鴨川から溢れたせせらぎの跡なんですけど、川の増水とともに水が増え、木も一緒に流れてくるから流れ木、そこから「なからぎ」となったらしいです。この半木神社の周辺に広がる紅葉が圧倒的にきれいです。

植物園に千年以上もの歴史をもつ神社があったなんて。神社を中心に約5,500平方メートルの森が広がる。

烏賀陽さん:やっぱりここでも水ということですね。

吉村さん:そこだけ植生として古いということですか。

三浦さん:古いと思います。面白い写真があって、植物園の候補地を探す方たちの様子を写したものなんですけど、よく見たらこの半木神社の部分だけ森がボコって見えているんです。

当時の写真はこちらから

吉村さん:すごいですね。神社に付随する鎮守の森だから残っていたということなんですね。

烏賀陽さん:植物園にこんなストーリーが眠っていたとは……。

必見!京都通たちが教える紅葉攻略法

吉村さん:最後にひとつ観光ガイド的な話をしてもいいですか。混雑を避けるというと、いろいろなやり方があると思うのですが、たとえばライトアップであれば、だいたいみんな早くに観るので、遅い時間が空いてくるんです。なので先にご飯を食べて、後から行く方がゆっくりできていいと思います。ただし、防寒対策はしっかりと。

定番の嵐山であれば、たいてい駅の近くの天龍寺や渡月橋あたりから人が増えてくるので、逆に一発目に嵯峨野の方に行ってしまうだとか。南禅寺と永観堂もだいたい南禅寺から混むんですよね。だから最初に永観堂へ。

三浦さん:人の流れの逆を行くということですね。流れを読む、さすが気象予報士さんな感じがします(笑)。

烏賀陽さん:天龍寺は、秋になると7時半から早朝参拝もやっています。そのまま裏の門から出て、竹林の道の方へ行くコースもおすすめですよ。

三浦さん:これは耳よりな情報ですね。いや〜いろんな情報を知れて楽しかったです。

烏賀陽さん:めちゃくちゃ楽しかったです。またやりたい(笑)。

吉村さん:ぜひよろしくお願いします!ありがとうございました。

ーみなさまありがとうございました!

 

 

今回の情報交換会で登場した紅葉スポットはこちらから。

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
写真提供(敬称略):烏賀陽百合、三浦 豊、吉村晋弥