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京都に集う「店舗型アーティスト」たち。芸大出身者のお店が、独自の世界観を極めているらしい

山田毅
山田毅
美術家・只本屋代表

噂の広まり

お祭り騒ぎ

京都で唯一無二のお店と出合いたければ、「芸術系大学の出身者」が営む店舗を探してみるといいかもしれない。

京都芸術大学、京都工芸繊維大学、京都市立芸術大学、嵯峨美術大学、京都精華大学。15キロ圏内に、これだけ多くの芸術・美術系大学が集まる街・京都。この街の噂を集めていると、グッとくる店の店主やオーナーが、先ほど挙げたような大学の出身者だった、ということが少なくない。

「いつか一挙紹介させていただきたい!」と考えていたある日、ツイッターでこんな図を発見。


引用元ツイート:https://twitter.com/yamada244/status/1479092819927396353?s=20&t=6fdktO0jyYhm-4bxsRH_Kw

作成者は京都のフリーペーパー専門店「只本屋」代表としても知られる美術家の山田毅さん。京都に分布する芸大系店舗をリサーチされているという。今回の記事ではその知見をフルにいかし、山田さんが「琴線に触れた」と語る店舗を徹底紹介していただいた。

※本記事は2022年6月に「ポmagazine」に掲載されたものです。一時非公開とさせていただいておりましたが、この度、本記事のB面にあたるこちらの記事とあわせて再掲載させていただきました。店舗などの掲載情報は初公開時のものであり、現在とは状況が異なる場合があります。

この記事で紹介するお店

#1 ホステル→複合施設に進化。アーティストの新生態系「kumagusuku」

・物の価値を揺さぶる販売スタイル「物と視点」

・独自開発のスパイスカレーやクラフトコーラが味わえる「キッサ渋オーミヤ」

・作者不明の謎手芸品や用途不明品も収集販売「BBABB6(ばばあの忘備録)」

・ラッピングデザイナーによる贈りもの屋さん「mosynē(モシュネ)」

#2 “お皿”が回る古民家レストラン「お皿とスプーン」

#3 店内の随所に感じるアーティストの気配。カレーという表現「森林食堂」

#4 ここ抜きには京都のストリートカルチャーを語れない「VOU / 棒」

#5 オーナーは木屋町のバー出身。曜日がわりの間借り店「壬生モクレン」

#6 食の研究所でもありアトリエでもある「保存食lab」

#7 心に引っかかるものが見つかる古道具店。工繊大のパイオニア「itou」

#8 若きデザイナーの感性が光る、古道具界のニューウェーブ「ものや」

#9 すっきりと澄みわたった空気感。古物や作家ものを扱う「酢橘堂」

僕は2013年に東京から京都にやってきました。その後、京都市立芸術大学の大学院に入学、2015年からは只本屋という本屋をやっています。右も左もわからない京都で過ごすうち、他にない雰囲気をもつお店や場を開く人々に、芸大出身者が多いということに気がつきました。芸大という自己表現の園を経た彼らの意思の表明、態度の現れとして、空間や商品を見てほしい。そして彼らの世界への眼差しを感じてほしいと思います。

#1 ホステル→複合施設に進化。アーティストの新生態系「kumagusuku」

只本屋と同い年、2015年に誕生したのが、アートホステル「kumagusuku」です。2013年の瀬戸内国際芸術祭のアートプロジェクトとして始まり、2015年に四条大宮からほどなくの場所で、アートホステルとして営業を開始。代表の矢津吉隆さんは、京都市立芸術大学出身。アーティストとしても活動しています。「展覧会に泊まる」をコンセプトにした宿泊型のアートスペースとしてさまざまな展覧会やイベントを開催してきましたが、2020年にアートホステルとしての営業を終了。2021年3月に12店舗が入居する小規模アート複合施設へとリニューアルしました。


kumagusuku中庭

リニューアルした「kumagusuku」の中には、店舗型アーティストによるお店がいくつか存在します。矢津さん自身も「物と視点」というお店をやっていて、ここでは廃材のようなものから作家の作品までを等価に扱うような販売スタイルで陳列しています。何が作品で何が廃材かわからないなかで、「価値とはなんだ?」と考えさせられる、そんなお店です。雑貨店とも古道具屋ともギャラリーとも違うその装いは、京都でも他に類を見ない店舗になっています。


「物と視点」店内

「kumagusuku」内のキッチンに飲食店として入っている「キッサ渋オーミヤ」は、京都市立芸術大学出身のアーティストである石川愛子さん、彌永ゆり子さん、田辺崇さん、柴田崇裕さんによって運営されている喫茶スペースです。4人それぞれがやりたいことをしようという心持ちではじめたのだそう。看板メニューとして、スパイスカレーやクラフトコーラなどを独自に開発。おつまみやお酒も扱っています。筆者は辛いカレーが食べられないのですが、ここのカレーは食べることができるんです。実は焼きプリンやなんかもとてもおいしい。


キッサ渋オーミヤのカレー

焼きプリンとアイスチャイ。暑い時期にサイコー!

同じく京都市立芸術大学出身のアーティスト、フジタマさんによるセレクトショップ「BBABB6(ばばあの忘備録)」に並ぶ商品は、さまざまなクリエイターによる衣料品、アクセサリー、アートワークを軸にしつつも、作者不明の謎手芸品や用途不明品もあったりとじつにさまざま。独自の審美眼でチョイスした品々には、クセになる魅力があります。


BBABB6(ばばあの忘備録)店内

「mosynē(モシュネ)」は、京都精華大学出身でラッピングデザイナーの足立夏子さんが運営するセレクトショップです。kumagusukuのスタッフでもある足立さんがセレクトしたさまざまな「贈りもの」が取り揃えられています。足立さん自身がラッピングしてくれるサービスも提供中。自分や誰かのために送りたい品々は、その人のことを思う時間もプレゼントしてくれているようです。


mosynē(モシュネ)店内

店舗型アーティストの集いのような「kumagusuku」。アーティストのひとつの生態系がここに見受けられます。筆者が運営する「只本屋」は、2015年に京都御所の東側で生まれました。その後東山へと移転したのですが、ずっと「本屋をやりたい」というよりは「みんなで集まれる場所をどうつくることができるか」という、アートプロジェクトに近い感覚がありました。そんな感覚や意識を、「kumagusuku」のような場所では感じとることができるのです。

「kumagusuku」では、建築事務所「dot architects(ドットアーキテクツ)」が手掛けた建物にも注目してほしいと思います。建築もやはり作品。随所にこだわりを見ることができます。中庭に差し込む光や風を感じながら、ゆったりとアート空間を堪能してください。

#2 “お皿”が回る古民家レストラン「お皿とスプーン」

2021年にできた「お皿とスプーン」は京都市立芸術大学出身の多田晶子さんとパートナーの多田摩耶彦さんが、ご夫婦で経営されている店舗です。元々は中央市場の近くのカフェ「Hygge(ヒュッゲ)」で間借り営業していたお店だったのが、古民家を丸々使ったレストランとして新しく開店したのだそう。


お皿とスプーン外観

白山湯などもあるこのあたりの地域では、京町家が住宅街に残っています。外観の趣もさることながら、「うなぎの寝床」と呼ばれる通り、奥に奥にと広がる空間が特徴的。井戸があったり、庭が広がっていたりと空間の力に魅了されます。


お皿とスプーン中庭

大きなスピーカーが置かれレコードがかかる店内。随所にこだわりが散りばめられています

料理は、ワインなどのお酒にあうものが中心。季節の野菜やお魚を使ったメニューの開発もされているそう。ふたりの人柄も相まって心地よい時間を過ごすことができます。


いくつかの料理を盛り合わせていただいた。美味!

店名の「お皿とスプーン」のお皿とは、レコードのことをさす“お皿”でもあります

お店では、ものづくり作家による商品の取り扱いも。まわりのクリエイターの活躍の場に少しでもなれば、という思いでつくられたお店ということで、つい共感を覚えてしまいます。

#3 店内の随所に感じるアーティストの気配。カレーという表現「森林食堂」

ケータリングや他の店舗での間借りなど、店舗をもつ前に小さく商いをはじめるというのも、店舗型アーティストたちによく見られる傾向のひとつです。


森林食堂のカレー。4種類くらいのカレーを盛り合わせてもらった。こちらも美味!

京都市立芸術大学出身の今中久美子さんが切り盛りする「森林食堂」は、京都ではかなり有名なカレー屋さんです。「学生時代、自身の音楽企画イベントや他のイベントにカレーを持っていっていたのがはじまり」と語る今中さん。山や寺、自然の中で開催されるそれらのイベントで、『食』を楽しめるようにと取り組んでいたそう。当時はまだ「ケータリング」という言葉が浸透しておらず、「出張カレー」と呼んでいたそうです。


森林食堂外観

音楽という表現のすぐ隣にカレーがあったという感じでしょうか。やがてそれらが融合し「森林食堂」というカレー店が出来上がりました。器や植物など、森林食堂を彩るモノたちにも、多くの表現者やクリエイターが関わっており、随所のこだわりが目を飽きさせません。そういった部分が、世界観の独自性をさらに高めているのかもしれません。カレーを食べながら感じる森林食堂の世界、それ自体がやっぱり彼らの表現なのだと思います。


森林食堂店内

京都市立芸術大学出身の「店舗型アーティスト」には、どことなくアカデミックで王道の店舗づくりをする傾向があるように思います。店舗の業態はさまざまですが、その奥に行儀のよさのようなものを感じるのです。そしてなぜか緑や植物が多いのは、山深い大学で育まれた土壌によるものではないかと勝手に思っているのですが、これは僕だけでしょうか。

#4 ここ抜きには京都のストリートカルチャーを語れない「VOU / 棒」

「kumagusuku」と同じく2015年に生まれたのが「VOU / 棒」。京都精華大学出身の川良謙太さんが運営を行っており、現在の店舗は四条河原町から住宅街に入った場所に位置しています。元印刷所跡を改装した3階建ビルの1階にギャラリー、2階にショップ、そして3階にはイベントスペースが展開されています。


「VOU / 棒」2F

筆者が取材に訪れたのは、7周年イベントの翌日。まだイベントの余波が残る店内では、アーティストが搬出作業などをしていました。行けば誰かに会える。そんな状況も含めて「VOU / 棒」にも、作家たちの生態系が出来上がっているような気がするのです。その作家がすべて精華大学出身であるかと言われればそんなことはないのですが、グラフティーなどのアート表現や音楽、ファッションなどなど、ストリートの匂いがどうしてもするのが、なんとも「らしい」なあと思います。


「VOU / 棒」3F

ギャラリーでは、京都を拠点とするアーティストを中心とした企画展を月に1本のペースで開催。2階のショップスペースでは、アーティストが制作した作品やZINE、陶器などがセレクトされています。ここではつくり手たちと制作した、「VOU / 棒」のオリジナルプロダクトも販売。筆者は、精華大学出身の作家・NAZEさんが手がけたライターと、「サウナの梅湯」のZINEを購入しました。


オリジナルの商品も数多く扱っている

NAZEさんのコーナー

京都精華大学出身者には、ストリートの香りや飲み屋の雰囲気がよく似合います。芸大には「芸大祭」、略して「芸祭」というものがあり、展覧会での作品発表やオリジナルグッズの販売を行うほか、飲み屋などのお店を開くことも。そのような場でのお店づくりの経験が、今の彼らの店舗運営や店舗づくりに生かされているのかもしれません。だからでしょうか、ギャラリー、ショップ、イベントスペースを兼ね備えたスペースでは、どこか芸祭の雰囲気を感じとることができます。そんな気配も含めて「VOU / 棒」の雰囲気を楽しんでください。

#5 オーナーは木屋町のバー出身。曜日がわりの間借り店「壬生モクレン」

阪急西院駅から10分ほどの商店街の一角にある「壬生モクレン」もまた、京都精華大学の文脈にあるお店です。オーナーさんは木屋町のバーご出身で、ご自身のお店をもちたいとはじめられたのがこの「壬生モクレン」だそう。2018年にカフェバーとしてオープンし、現在は曜日がわりで間借り店舗が入れ替わる形態で営業しています。オーナーの方が最近2拠点生活をはじめたことをきっかけに、現在のかたちになったそう。


壬生モクレン外観

僕がうかがったのは、喫茶店「珈琲とあまいもの ぽたぽた」の日。オレンジのタルトが絶品でした。


オレンジのタルトが美味でした!

以前から通っていたお客さんであれば、僕同様、カフェバーだったころの壬生モクレンと同様の空気を間借り店のラインナップに感じられるはず。6月より月一で入っているカフェ「KOEK(クーク)」は、京都市立芸術大学出身のふたりによる手づくり焼き菓子のお店だという情報も入ってきています。「kumagusuku」や「VOU / 棒」ともまた違う生態系が、ここにあるのかもしれません。


商店街に趣がありました〜

#6 食の研究所でもありアトリエでもある「保存食lab」

京都芸術大学(旧 京都造形芸術大学)出身者によるお店というのは、それほど多いわけではありません。どちらかといえば商品の開発や販売を行う人が多い印象です。共通しているのは、手がけたもののデザイン性が高く、ご本人のキャラクター含めてブランディングがしっかりしている方が多い印象があること。そしてあくまでも筆者の雑感ではありますが、人や店舗よりも扱う商品が際立っていることが多いように思われます。

そのなかでも特にユニークなお店のひとつであり、出町柳駅から5分程度の住宅街にあるのが、瓶詰めの保存食を扱う「保存食lab」です。筆者も商品を見たことはあったのですが、店舗に行ったのは初めてでした。ここは京都芸術大学出身の増本奈穂さんのアトリエ兼直売所。お店は毎日開いているわけではなく、1週間に2日ぐらいの頻度で営業されています。


保存食lab店内

増本さんの実家の自家菜園で穫れた食材を使って、瓶詰めの保存食を考案・販売したり、時には食にまつわるワークショップを行ったりと、まさに「ラボ」的な活動の拠点になっている模様。

スタジオやアトリエ、工場など、「ものができる現場」は、やっぱりつくり手の創意工夫が込められていて非常におもしろい。そんなことを再確認した場所でした。

#7 心に引っかかるものが見つかる古道具店。工繊大のパイオニア「itou」

「芸術大学」という括りからは少し外れるかもしれませんが、最近京都では、京都工芸繊維大学出身者による古道具/雑貨店が増えてきています。そこでは、なにが起きているのでしょうか?

京都市左京区の一乗寺に「itou」という古道具を扱うお店があります。入口から階段を登ると、その先には、ただものではない感性によってつくられたことがひと目でわかる、そんな空間が広がっています。


itou外観

itou店内

itou店主の伊藤槙吾さんは、京都工芸繊維大学出身。お店であつかう物品は、そのどれもが少し珍妙であり、何か心に引っかかるものがあります。それらがディスプレイにもこだわって並べられている。その絶妙な審美眼と配置のセンスに、ハートをぐわっと掴まれるのです。入店して、気がついたらなにかよくわからないものを手に抱えている。それが「itou」を象徴する体験かもしれません。

筆者が買ってしまったのは、「itou」のオリジナルプロダクトである「ニョロニョロ棒」。その名のとおり、「にょろにょろした棒」そのものです。


洗濯物を干せるくらい長いものもあるというニョロニョロ棒。こいつをどう使おうかと考えるだけで、生活がちょっと愉快になります

ニョロニョロ棒だけでなく、テーブルなども開発していたりする。ものを「見る」ことに加え、「つくる」精神も感じられるお店です。

#8 若きデザイナーの感性が光る、古道具界のニューウェーブ「ものや」

北区紫竹にある古道具店「ものや」をつくったおふたり、櫻井仁紀さんと吉田卓史さんもまた、京都工芸繊維大学のご出身。道具の新しい可能性を模索する、古道具界のニューウェーブ的存在として知られています。平安蚤の市などにも出店しているのですが、その時の様子だけでも他の出店者とは少し違うことがわかります。この「違い」をさらなる濃度で体験できるのが、この店舗というわけです。


ものや店内

デザイナーでもあるおふたり。その活動からは、古物、古道具という切り口からデザインを考えたいという姿勢が感じられます。独自の感性とセレクションセンスが、古物界の次世代という称号にふさわしい審美眼を支えているのでしょう。ポップアップショップイベントや他のクリエイターとの共同企画、オリジナル什器の制作など多岐にわたる活動を、ついワクワクして追いかけてしまう存在です。


ものやオリジナルのプロダクト

左側のイタリア製の額を購入しました

現在、立ち上げメンバーで建築家のもとで働いていた高垣崚さんが再び戻ってきて、ものやは3人体制に。デザイン領域が空間へも広がっていく、そんな新展開にも期待ができそうです。

#9 すっきりと澄みわたった空気感。古物や作家ものを扱う「酢橘堂」

円町にて花瓶、食器、オブジェなど古物を中心に取り揃えるお店「酢橘堂」も、京都工芸繊維大学の卒業生によるもの。店主・大田美由希さんが海外から買い付けているという花器や器とともに、同じく京都工芸繊維大学出身の橋口賢人さんが手がけるバックブランド「KENTO HASHIGUCHI」の商品も扱っています。


酢橘堂店内

店内は、まさに「酢橘」という名前がぴったりの洗練された印象。すっきりとした清涼感を感じるお店です。白を基調とした空間やそこに浮かび上がる商品の色に、店主の世界観がよく現れています。聞けば、「酢橘堂」の名前の由来は、飼っているウサギの名前なんだそう。それは知らなかった。


花器や花瓶を買うならば酢橘堂、というイメージ

店主の方は「itou」などに通っていたという話を聞きました。ふたつは全然違うお店でありながら、何か通づるものを感じずにはいられないのは、僕だけでしょうか。大切な誰かへ、自分へのご褒美に。大事な贈りものを探すシーンで訪れたい、そんな気持ちにさせてくれる店舗でした。

京都工芸繊維大学の出身者たちから強く感じるのは、クラフトマンシップともいえる、ものづくりやつくり手へのこだわり。芸術大学にも通じる、芸術的学域をもった大学ならではのお店だと感じます。

彼らに続く存在として「喫茶ペトロール」という、自由に食器を選び、使ってみてから購入できる間借り喫茶があるという噂も入手。京都工芸繊維大学出身者の動向には、今後も注目です。

「店舗型アーティスト」のお店をめぐって

弘法市や天神市など、門前市の文化が古くから浸透している京都。この街では、現在もクラフトマーケットや手づくり市、蚤の市などが、連日どこかで開催されています。そんな土壌も相まって、小商いを生業にする人々を増やしているのかもしれません。今回は店舗の紹介というかたちでしたが、マーケットや市というシーンでも「実は芸大出身で……」という方にたくさん出会います。珈琲やカレー、アクセサリーやニットと、市やマーケットを舞台にさまざまな手技が披露されているのです。

芸大系店舗の充実には、京都の地形も関係しているかもしれません。盆地なので、夏は暑くて冬は寒い。それは空気が外へと流れ出ていかないということです。人も同じように滞留して流れ出ることが少ない。卒業後も京都にとどまる作家が多く、作家スタジオが密集しているのは、そんな所以もあるのでしょうか。この地で生業と表現、その折り合いを模索した先に、お店をはじめたという人は多いようです。

お店であると同時に、表現めいたものが見え隠れする。それが彼ら「店舗型アーティスト」たちのお店です。もちろん芸大を出ていなくても、こだわりをもってお店をつくっている人は数えきれないほど存在します。しかし「芸大」という自己表現の園を経た人々によるお店には、強く意識された独自の美学を感じるのです。それは彼らの意思や姿勢の表明なのだと思います。それと同時に、そのような感性を受け入れ育てている「京都」という場所に、改めて想いを馳せる、そんな機会になったと感じています。

<筆者プロフィール>

山田毅(やまだ・つよし)

美術家、只本屋代表。1981年東京生まれ。2003年武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科卒業。2022年京都市立芸術大学大学院博士後期課程満期退学。京都市立芸術大学芸術資源研究センター客員研究員、京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)非常勤講師。2015年より京都市東山区にて「只本屋」を立ち上げ、島根県浜田市や宮崎県三股町などで活動を広げる。2017年に矢津吉隆とともに「副産物産店」のプロジェクトを開始。京都市の市営団地に美術室を開設するなど、現在、作品制作の傍らさまざまな場づくりに関わる。

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
写真(敬称略):山田毅

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