2022.9.9
「スパイスカレー屋には音楽家が多いらしい」を京都で検証したら全然違う結果になった
噂の広まり
雑誌やWebメディアで囁かれる「スパイスカレー屋にはミュージシャンが多い」という噂。
たしかに京都のカレー屋でもよく耳にする噂であり、編集部でも話題になることがしばしば。果たして京都での実態は?そんな疑問を探るべく、京都で名を馳せる、3人の音楽系カレー屋店主に集まってもらいました。
しかし、いざ話をしてもらうと音楽の話はそこそこに、ノンストップで繰り出されたのは「旨味ってどう出します?」「どういうスパイス使ってます?」とあくなきカレーへの探究心のぶつかり合い。
普段は独自でそれぞれのカレーを突き詰めている人たちが一同に会すると、こうもマニアックでおもしろい話が出てくるものか!
聞けばやっぱり音楽をやっている人は多いけれど、幅広い「ものをつくることが好き」という気質が向かう選択肢のひとつなのかもしれず、今回は【噂を検証しようとしたらもっと奥深い世界が待っていた】、そんな座談会の様子をお届けします。
〈話を聴いた人〉※五十音順
大西竜太さん
2021年、東山にナチュールカレー専門店「NATURE CURRY 創龍」をオープン。ギターとボサノヴァをこよなく愛し、飲食店などで演奏活動を行う。
佐藤圭介さん
2016年から大宮でスパイスカレー店「ムジャラ」を営む。若い頃からノイズ・ミュージックにハマり、現在も個人で活動を続ける。ライブハウス「大粒の泪」も運営。
徳増良介さん
間借り営業を経て、2021年西院に「スパイスカレー キテレツ」の店舗をオープン。あいがけスタイルの先駆けともいわれる「CURRY & BAR 240(ニコヨン)」の元店主。ロックバンド「LABRET(ラブレット)」でギターを務める。
みんな自由にやってるから「京都のカレー事情」とかはない
ー まずはそれぞれのカレー屋としての遍歴についてお伺いします。
佐藤:僕はそもそも、普通に家でカレーをつくるのが好きみたいな人だったんですよね。お店を始める前はサラリーマンだったんですけど、仕事がちょっと合わなくて。とはいえ結婚もして家庭もあるし稼がないとダメなんで、カレーだったらつくれるかなって。
ー どこかで修行とかそういうのは?
佐藤:あ、もう全然。そもそも僕がカレーつくってることを誰も知らないくらいでした。
ー 徳増さんはどうですか?
徳増:昔は僕、バーテンの仕事をやっていたんです。それで、何かのきっかけで三条河原町の「明治屋」に友達と買い物に行った時に、スパイスカレーキットみたいなのが売っていて、700円ぐらいの。
佐藤:「GABAN」みたいなやつ?
徳増:みたいなやつですね。当時はスパイスカレーという言葉すら全然知らなかったんですよ。いわゆるルウの「家カレー」しか食べたことがなくて。で、友達とつくって食べたら、めっちゃくちゃおいしくて!
ー 人生初のスパイスカレーに衝撃を受けたと。
徳増:今食べたら全然大したことないカレーなんでしょうけど、それがきっかけでめっちゃハマって。明治屋に行くたびにスパイスを買い集めて、家でつくりだして……って感じですね。
ー 周りの誰かにカレーをつくったりはしていたのでしょうか。
徳増:スパイスカレーにハマった当時、1階がバーになっている一軒家の2階部分に、フィンランド人の友人とルームシェアしてたんですよ。家賃1万円で(笑)。そのシェアメイトが1階のバーで働いてたので、つくったカレーを持って行って振る舞うっていうのはずっとやってましたね。
ー それは楽しそうですね。
徳増:値段とかはつけられなかったんで、ビールおごってやぐらいの感覚で。そんなのがスタートですかね。
ー ちなみにその方の感想は?
徳増:「口の中でガリっとする食感が嫌やから、ブラックペッパーをホールで入れないでくれ」って言われました。いうてもタダでごはんつくってるのにめっちゃ注文するやんって(笑)。
ー ありがとうございます。では、大西さんお願いします。
大西:僕、前提としてカレー屋としてはめちゃめちゃ新人なんで、おふたりと同じステージで語るのがちょっと申し訳ないんですけど(笑)。カレーもとい料理はずっと好きでしたね。一人暮らししてた時もそうですし、結婚して20年ぐらいになるんですけど、毎日のご飯担当は僕なんですよ。
佐藤:えぇ!すご。
大西:もちろん外食も好きやからよく行きますけど、家で食べる時は僕がつくるんですよ。もともと雑貨屋さんを2軒経営してるんですけど、コロナ禍でお客さんがかなり減ってしまって。お客さんもいないし、店開けてても仕方ないしで、料理に余計拍車がかかって。
徳増:東山は観光地やし、ほんま大変ですね。
大西:それで僕もスパイスカレーのキットでカレーをつくったんですけど、改めてスパイスカレーっておいしいなと。そこからどんどんハマって、家族や友達に食べてもらっているうちにお店をやりたいなと思い、ちょうど1年ぐらい前にお店を始めました。
ー 大阪はよく「スパイスカレー屋といえば〜」で語られることが多いですが、京都でも「こういうカレーの潮流がある」とかってあるんでしょうか?
佐藤:うーん、京都のカレーシーンとか大阪のカレーシーンとかっていうのはそもそも考えたことないんですよね。
徳増:大阪は人口も違うし、全国的に知名度の高いお店もある。間借り営業スタイルも前からあったから、スパイスカレー屋の枝分かれするスピードが、すごいじゃないですか。だからある種の「語りやすさ」みたいなのはあると思うんですよ。
ー なるほど。
徳増:ただスピードが速い分、生まれては消えみたいな感じもありますけど、京都はパラパラ増えてきてるのかなみたいな印象はあります。僕がニコヨンをやり始めた当時は、今ほどお店もなかったですし。とはいえ僕も、京都のシーンを盛り上げなくては!みたいなのはあんまり考えたことがないですね。けっこうみんなマイペースに、好きにやってるのかも。
佐藤:カレーとラーメンなんかみんなが好きな国民食やから、当たり前に「腹減ったから行く」ぐらいでいいと思ってますし。あんまり「京都のスパイスカレーがどうだ〜」みたいなメディアの食い物にされるのは、個人的にはしんどく感じてしまいます。
カレー屋は音楽やってる人が多い説、京都ではどう?
ー あんまり括るのはアレですけど、カレー屋さんにはミュージシャンが多いという噂について。実際よく聞きますし、そういうテーマで雑誌に取り上げられたりもしていますが、京都ではどうでしょうか。
徳増:烏丸のビリヤニ専門店「INDIA GATE」の店主も音楽やってるし、たしかにわりといるかもしれないですね。
ー みなさんも音楽をされていますが、それぞれどういうジャンルの音楽でしょうか?
徳増:僕は「LABRET(ラブレット)」というスリーピースバンドをやってます。ジャンルで言うとメロコアが一番近いのかな。今年で活動17年とかなんですけど、7月末にアルバムを出して、今まさに全国ツアー中です。
ー 佐藤さんはどうですか?
佐藤:僕はノイズとか、そっち系かな。元々ひとりで活動してて、そこからバンドになったりとか紆余曲折あって。今はひとりでたまにDJやったり、いろんな機材を使って即興演奏やったり。あと、ちょっとお金を貯めて、ノイズとかエクスペリメンタルな音楽をやるためのライブハウスも開きました。
ー 大西さんはどうでしょうか?
大西:僕はボサノヴァをやってますね。楽器はギターです。レストランとか、飲み屋さんとかでBGM的に演奏をしています。ドラムができるバーの店主と一緒に、そこのバーセッションしたり。コロナ禍前だと、週末の夜はもう少し人を集めた演奏会なんかもしてたんですけど。
徳増:僕がバンドやってるからつながりやすいっていうのはあると思うんですけど、スパイスカレー屋にはたしかにバンドマンは多い気がしますね、なんか。
ー ちなみに、ご自身がやっている音楽とカレーって似ていたりするんでしょうか。
徳増:あ〜、なんだろうな。
佐藤:たしかにカレー屋さんは、音楽にたとえるとジャンルがあるとは思います。それはすごいわかるけど、自分が何なのかっていうと……。
徳増:そうそう。感覚はわかるんですけど(笑)。
佐藤:僕はインド人が普通に家でつくるような、シンプルなカレーを目指しているので、あえてたとえるなら、古典音楽なんじゃないかと思います。別に新しい発想のものをやっているつもりはないから、ほんまにスタンダードな……という意味で。でもそこまでクラシックな感じじゃなくて、家の風呂でも入りながら歌ってるみたいな感じの音楽じゃないですかね。
徳増:おもしろいですね、この話。言語化は難しいけど感覚的にわかるっていう。音楽もメンバーと即興的にセッションしながら曲つくったりするんで、まぁカレーもそういうことに近いのかな……。
大西:ちなみに、みなさんは練習って好きですか?
徳増:練習ですか?まぁ練習はしますね。ライブもやるんで。
大西:僕はそこが1番カレーと近いんちゃうかなと思います。音楽って、ライブまでにめちゃめちゃ裏で練習するじゃないですか。リハーサル含め、家での個人練習とか。けっこうひとりでちまちま練習しないと、人前で発表できるレベルにはならないですよね。カレーもやっぱり、僕はちまちま積み上げていくタイプなんで、そういう共通項はあるかもしれない。
ー 音楽好きというか、音楽に限らず何かものをつくるとか、自分の好きなものをちまちま集めたりつくったりするのが好きな人は多いかもしれないですね。「変わった奴が多い」っていうのは聞いたことがあります。
佐藤:うん、ややこしい人が多いと思う(笑)。
三者三様、それぞれのカレーで大事にしていること
ー ご自身のカレーで、ずばり売りにしているポイントってなんですか?
佐藤:僕はその日の提供分はその日につくるっていうのと、あとはとにかくシンプルなこと。
ー シンプル?
佐藤:そう、シンプルな味つけかな。うちは基本的に調味料は塩しか使ったらダメっていう禁止事項があるんです。だからスープもとらない。塩だけ使って、ざっとつくって食べれるっていうシンプルな料理を出したいんですよ。
大西:なるほど、もうスパイスと塩だけって感じですか。
佐藤:そうですね。ただその塩分の落とし所がけっこう難しいんですよね。今も模索中です。
ー ジャンルでいうとインドカレーなんでしょうか?
佐藤:そうですね。本当にシンプルなインドカレー。南とか北とかは意識してないんですけど、とりあえずシンプルにご飯で食べようと思ったら、どうしても南系のやつになりますね。
ー 徳増さんはどうでしょうか。
徳増:いざ聞かれると難しいですね。まぁでも1番は「調和」を考えてるかもしれないですね。
ー 調和ですか。
徳増:ニコヨンの時から2種、3種のあいがけカレーっていうのをよくやってたんです。キテレツをはじめるにあたってはさらに勉強して、ニコヨンの時にはつくっていないようなカレーも試作してたら、調和っていう視点が生まれてきた。
ー ニコヨンの時に調和はそこまで重視していなかったんでしょうか。
徳増:ゼロではないですけど、今思えば昔はそこまで考えてなかったなって。見た目も豪華やしこれでええんちゃうか、みたいな感じでやってたところがありましたね。今はカレーや副菜、それぞれの相乗効果があって、最後はひとつの味に着地するっていうところに目標がでてきました。「九州ランカ」に出会ったのも大きなきっかけですね。
ー 「九州ランカ」とは?
徳増:九州には、九州独自に発展しているスリランカカレーの文化があって。「東方遊酒菜ヌワラエリヤ」やその姉妹店の「ツナパハ」っていうお店が発祥だとは言われてるんですけど、調和がものすごいんですよ。こんなうまいもんが九州にしかないなんて!と現地の味を勉強して、僕らも8月末まで神宮丸太町で間借りの「キテレツランカ」ってお店をやってました。九州ランカにインスパイアをうけてつくったから、「キテレツランカ」。
ー なるほど。
徳増:調和に意識を向けてみると、インドの食事法である「アユールヴェーダ」とかにも興味が湧いてきましたし、酸味ひとつとっても、甘い酸味とか辛い酸味とか、バリエーションを考えられるようになって。そんな感じで、「この一皿は調和してるかな」っていうのはいつも考えてます。
ー 調和でいうと、混ぜて食べた方がおいしいということでしょうか。
徳増:基本は自由に食べてもらったらいいですし、まぁ最初から混ぜてもいいんですけど。一応、このカレーはこういう風に食べて欲しいっていうのは提供時に伝えています。まぁでも結局、僕の言う調和っていうのは食べ終える時に気持ち良く完結できるかどうかって感じですかね。
ー 大西さんはどうでしょうか。
大西:うちは「ナチュールカリー」を掲げている通り、身体に良いという点でしょうか。そもそもカレーに使われるスパイスは身体に良いものが多いんですけどね。それに加えて野菜がたっぷり摂れて、いっぱい食べても胃があんまりしんどくない、がっつり旨味はあるけど、基本的にはヘルシーなカレーを心がけてます。
ー 栄養もたっぷり摂れそうです。
大西:僕もうすぐ50歳なんですけど、脂っこいものがだんだん食べられなくなってきて(笑)。健康診断で指摘が入ったりもして、健康に気を遣うようになったんです。あと、うちは他店に比べたら油や脂はなるべく絞ってますね。たとえばキーマとかでも、ソイミートを半分ぐらい入れるとか。
ー まさにおじさんにやさしいカレー。良いですね。
大西:そうですね、僕自身が食べてしんどくないカレーを心がけてるんで、やさしさはあると思います。
「アレってどうしてます?」から始まる、深め強めなこだわり談義
ー スパイスの香りをつけるためには油分が必要ですし、油や脂のコクが旨味になってることもあると思うのですが、大西さんは油分を削っている分、何で味の補填をしてるんでしょうか。
大西:僕はスープをけっこう緻密につくっています。鶏と豚で別々にスープをとって、玉ねぎ麹とか、いろんな旨味成分が出るようなものを前もって複数パーツとして仕込んでおいて、それを前日から当日に合わせて完成させるんです。いつも出しているメインのカレーふたつはそんな感じで、事前準備が大変だけどその分あまりブレないようにしています。もう1種類は週ごとにレシピを変えたものをつくって、合計3種類で回しています。
徳増:それだけやれば旨味は上がりますよね。スープの食材に何かこだわりはあるんですか?
大西:店の近くの焼き鳥屋さんが扱っている「淡海地鶏」がめっちゃ好きで。その鶏の鶏ガラでスープをとっています。豚は、中勢以さんっていう肉屋さんで扱ってる、熟成豚肉を使っています。近所にたまたま、こうした良い食材を扱っているお店があって、ぜひこれらを使ってカレーをつくりたいと思ったんですね。パーツを1個ずつ仕上げておいて、最後に合わせた時の旨味爆発がたまらないんです。
佐藤:めちゃくちゃすごいですね、一体いつ寝てるんだっていう(笑)。
大西:まぁ大変ですけど、旨味はどうしてもね……、僕は欲しい派なんです。
佐藤:旨味問題ね。いや〜、わかるわかる。そこめちゃくちゃ難しいですよね。
大西:そうなんですよ。お店をはじめる前、いろんなスパイスカレーを食べ歩いたんですけど、それまでは、いわゆる欧風カレーばっかりで、その味に慣れていたから普段食べてるカレーにあるべきところのパーツがスッと抜けてるような感じがしたんです。
ただ、スパイスカレーってトップに感じる香りはめっちゃすごいじゃないですか。でもその分、旨味のところが抜けてるような感覚があったので、僕のカレーはなんとかそこを埋めたいなって。
佐藤:旨味を入れすぎるとスパイス感が全然なくなるし、めちゃくちゃ難しいですよね。旨味問題は。
大西:あえて旨味がないのも潔く、スパイス感が増していいんですけどね。うちでは油は基本的にスパイスの香りを移すのが役目ぐらいの感じでやっています。それが最小限あったらいいかなというぐらいなので、うちのカレーの味の主力はやっぱりスープですね。
ー 味つけは塩のみというシンプルさのなかで、佐藤さんはどうやって旨味部分を足してるんでしょうか。
佐藤:最近はココナッツとカシューナッツ、ポピーシードを使ってます。特にポピーシードは、最近自分のなかで流行ってるんです。
大西:どうやって調理するんですか?
佐藤:ポピーシードとカシューナッツを焙煎したところに、ココナッツミルクパウダーをお湯で溶いてドロドロにして。けっこうコクも出るし植物由来の旨味みたいなのが出る感じがあります。
徳増:僕は辛さと塩が難しいな〜って思いますね。最近、副菜をちょっと変えたんですよ。すると、混ぜた時とかの印象が全然変わるなっていう発見があったりして。
佐藤:なるほど。
徳増:僕が「九州ランカ」にハマる要因でもあるんですけど、スリランカっていろんな副菜をごちゃ混ぜにして食べる文化があるんですよ。渾然一体になってるのになんでこんなにうまいんだっていう驚きがあって。調和の中にある味の変化というか、そういうのを、副菜なりカレーなりでつけるようにはけっこうしてます。
スパイスカレー屋はみんな、辛さ・塩・油とスパイスの香りに毎日めっちゃうーんうーん言ってると思うんですけどね(笑)。
佐藤:それも体調によるしね。自分で味つけしてるから体調がよくなかったら、ものすごいやさしい味になる(笑)。
徳増:ありますよね。夜食べるか朝食べるか、ご飯と一緒に食べるかとかでも全然変わってくる。カレーだけ食べて味決まった気がしても、ご飯と食べたらまったく印象が違うんですよ。
佐藤:そうそう。
徳増:だから「今日の味つけ完璧に決まったわ!」っていう時こそ、オープン前にご飯と食べるようにしてるんです。とはいえこれって、ほかの人はそこまで気づかない自分の微妙な加減なんですよね。塩が足りてないのか水分が多いのか、微妙なとこなんですけど、同じレシピでも、毎日何かが違う。
大西:僕も日々、味にちょっとした変化があるから「プロやったらバシッといかなあかんやろ」と思ってたけど、それはやっぱりあるんですね。
徳増:ありますあります。難しいですね。
佐藤:食材の個体差もありますしね。今日の豚肉けっこうにおい強いなとか。
大西:トマトとかも、旨味をかなり担ってますけど、生やとトマト自体の個体差めっちゃ出ませんか?
徳増:出ますでます。でもやっぱりフレッシュなトマトはいいですよね。
佐藤:あと味付けでいうと、ココナッツミルクの加減が難しいかな。
大西:入れすぎ注意っていうのは間違いないですよね、あれは。
徳増:僕、前にココナッツミルクがめっちゃ気になって、業務スーパーから高級スーパーまで、周囲で買えるココナッツミルクを全部買って味見したことがあるんですけど、商品によって差がすごいんですよ。どこのココナッツミルクを使うかで味がめっちゃ変わるんで、今はもうパウダーに落ち着いてますね。
佐藤:うちもパウダーよく使いますね。あと、パウダーも炒めたりしてる。スパイスと一緒にパウダーを入れて、ガーっと炒めてダマを全部無くして、水をビャーッてやって。ココナッツ感は薄れるけど、ローストされた感じが出てわりといいっすよ。
大西:玉ねぎとかも難しいですよね。どこまで炒めたらいいのかとか、迷宮入ってしまったらほんまに軸がわからなくなってしまう時があって。
徳増:「キテレツランカ」で出してる九州ランカのカレーは、端がちょっと茶色くなるぐらいで止めてるんですよ。でも僕の好みは、かなり茶色い、焦げのビターさも感じる方が好みなんですけど。
大西:切り方は?
徳増:スライスですね。欧風カレーつくる時は、みじん切りとか多いですよね、やっぱ。まぁでも真実は全然わかってないです、僕も。
佐藤:俺もわかってない(笑)。
「勉強のためにバイトさせてくれへんかな」
カレー屋が気になるカレーあれこれ
ー カレーづくりの話をし出すと止まらないですね。みなさん、他店で気になるカレー屋さんとかはありますか?
大西:僕、ないんですよ。お店やる前の勉強以外でカレーってあんまり食べに行ったことなくて。
ー 家でつくってきたっておっしゃってましたもんね。
大西:それこそ初めてお店のカレーを食べて勉強しようって行ったのがムジャラさんでした。それ以前はホテルの朝食のカレーぐらいしか外で食べたことないんですよ。なのでこれぞって店は僕の場合なくて。
ー 外で食べ歩いたりしなくても、自分の好きな軸さえあればおいしいスパイスカレーはつくれるということなんでしょうね。佐藤さんはどうですか?
佐藤:「とんきん」っていう鳥取の米子にあるカレー屋さん。地元なんですけど、クソヤバイカレー屋なんですよ。おばあちゃんがふたりでやってて、シャッバシャバの、シャッバシャバなんですけど、めっちゃくちゃうまい。
徳増:欧風カレーなんですか?
佐藤:いや、インドカレーかな。
ー おばあちゃんがやってるインドカレーってなかなかすごそうです。
佐藤:どうやってあんなにおいしいカレーをつくってるのかはわからないですけど、ほんと匠の技術みたいな感じ。だからものすごく人気です。
徳増:ぜひ仕込みを見てみたいですね。
佐藤:めっちゃ見てみたい。具は何もないくらいのシャバシャバカレーなんです。プレーンがそれで、チキンカレー頼んだら、そこに棒状のチキンカツがぼーんと乗ってくる。ハンバーグカレー頼んだら、その場でタネをこね出すんですよ、腰曲がったおばあちゃんが。
大西:注文入ってからハンバーグこねるんですか。こだわってるなぁ。
ー そこの味を意識するとかってあります?
佐藤:めちゃくちゃあるっす。シャバシャバでシンプルなのに中毒性がある、あんなカレーに到達したいって思うんやけどなかなか……。
ー いい話聞けました。徳増さんはいかがでしょう。
徳増:北海道にライブしに行った時に、地元のバンドマンが「カラバトカリー」に連れてってくれて。
佐藤:あぁ〜!
徳増:パキスタンカレーがベースになっていて、もうボロッボロの繊維状になった鶏が骨ごと食べれるようなカレーなんです。それが白米と、酸っぱいサラダみたいな酢の物と、チャイのセットで出てくるんです。めちゃくちゃ癖が強いけど、おもしろくておいしいですね。あとは横浜の「サリサリカレー」も良い。あとはやっぱり九州ランカのカレーですかね。
佐藤:九州ランカといえば「ツナパハ」ですよね。あれはうまい。
徳増:ですです。ココナッツベースで、チキンカレーとポテトカレーをそれぞれ混ぜながら食べるやつ。
佐藤:うちもたまにツナパハを意識してチキンカレーつくります。ツナパハのカレーって、絶妙な素っ気なさがあるんですよ。こくうまじゃなくて、絶妙な物足りなさが良い。
徳増:難しいですよね、あのバランス。
佐藤:「サリサリカレー」も「ツナパハ」も、あとは東京の「デリー」とかもそうやけど、ゴリゴリの現地系でもなくて日本の中で独自進化したあのジャンルが結局最強なんですよ。めちゃくちゃ憧れます。
徳増:ほんま仕込み行ってみたい。1日働きたいです、いろんな店で。
佐藤:僕も、バイトしたいもん。
大西:最高ですね。
佐藤:「デリー」とかで働けたらほんまにめちゃめちゃ勉強になるやろうな〜とか考えながらずっと玉ねぎ炒めてますもん。何時間ぐらい炒めてるんでしょうね、あれ。たぶん楽勝で4時間ぐらい炒めるでしょ。
徳増:そういうの気になりますね。もうほんま働きたいです。1日体験入店みたいなね。仕入れから仕込みまで全部教えてもらって、その配分とかは別に良いので、どういう風につくっているか横から見るだけでも……!
それぞれ自由にやっているからこそカルチャーは厚くなる
ー 今回「スパイスカレー屋は音楽やってる人が多い」という企画でしたが、本質は「スパイスカレー屋は何かものをつくるのが好きな人が多い」のかもしれません。3人とも音楽をやっているとはいえジャンルもバラバラなので。
大西:活動する領域もバラバラですし。それに、一口にスパイスカレーと言ってもつくる人によって中身は相当違うから、そもそも一括りにしたり、比べたりする必要もないのかなと思います。
ー たしかにそうですね。3名が注目している味の組み立て方も違っていておもしろかったです。
佐藤:他店は気にしないですよね。そもそも自分が必死やから(笑)。どこのカレーがどうこうとか言っても、それでは飯食われへんし。
徳増:自分がおいしいと思ってるものをつくるだけですしね。そもそもこうやって同業者でしゃべることもあんまりないので。
佐藤:でもほかは気にしないと言いつつ、いざ話してみると聞いてみたいことは山ほどあった(笑)。みんなの「これどうしてるの?」って話ができておもしろかったです。
ー それぞれが自由に探求してやっているからこそ、いろんなお店が増えてくるし、カルチャーは厚くなる。だからといって「京都ではこういうシーンが……」という話にはならないことがよくわかりました。今日はありがとうございました!
ちなみに、炒め玉ねぎをつくるときはスライスした玉ねぎを一旦冷凍させると、細胞壁が壊れて短時間で飴色になるらしいですよ。
徳増:へえ〜!冷凍!
大西:お店だと冷凍庫のスペース確保が大変ですよね。
佐藤:最近、うまいつくり方をいっこ編み出したんですけど、チキンカレーのベースを普通につくるじゃないですか……
(以下、終わらず延長戦が始まる)
企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
企画協力:ヒラヤマヤスコ、古賀亮平
写真:古賀亮平
写真提供:大西竜太、佐藤圭介、徳増良介
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