2023.4.5
【ChatGPT】AIが勧める京都ツアーを観光のプロと検証してみたら、勉強になった
噂の広まり
まるで人間が回答したようなリアリティあふれる対話が話題のAIチャットツール「ChatGPT」や、コンピューターが描いたとは思えない高クオリティの画像を生み出せる画像生成AIなど「ジェネレーティブAI」が大ブームになっている。
AIはツアーコンダクターのように京都観光も計画できるのかな?という素朴な疑問のもと、話題のChatGPTが計画した京都観光観光ツアーを、画像生成AIでビジュアル化してみた。
すると……
うーん、独特の京都像が浮かび上がってきた。これはもしかして、AIが描き出す京都らしさから「京都を京都たらしめるもの」を辿ることができるのでは……?
と考えた編集部は、AIが計画した京都観光ツアーに、ブラタモリでお馴染みの「まいまい京都」代表・以倉敬之さんに“解読”をお願いしてみた。
AIツアーコンダクターによる思わず笑ってしまうハチャメチャな回答と、以倉さんによる的確なツッコミをお楽しみください。
<話を聞いた人>
以倉敬之さん
京都のまち歩きツアー「まいまい京都」主宰。600人を超える各分野のスペシャリストらとともに、年間約900のまち歩きツアーを企画・開催する。2018年には「まいまい東京」、2022年には「京都モダン建築祭」も開始。NHK「ブラタモリ」では企画協力や、清水編・御所編・鴨川編に出演。
「祇園寺」は、存在していた!?
まずは、京都を1日観光するプランについて聞いてみた。
以倉さん:まず祇園寺について、八坂神社はかつて「祇園寺(ぎおんじ)」ともいいました。その後、「祇園社」「祇園感神院(かんしんいん)」などと呼ばれることが多くなり、今でも「祇園さん」という愛称もあるほどです。八坂神社と呼ばれるようになったのは明治以降ですね。
ー 明らかなミスかと思ったらそんな事実が!八坂神社は、神仏習合の神社といわれますが、「祇園寺」が起源であるということからも、お寺としての要素があるということでしょうか。
以倉さん:そもそも昔は、お寺の中にも神社があるし、神社の中にも寺がある。境目なんてはっきり存在しなかったんだろうと思います。たとえば、観音様ってもともと仏教には存在していなかったんですよ。もとはインド南方の島の守護神かとか考えられています。それらを「大乗仏教」という考え方のもと、現地の神様などいろいろな要素を取り込んでいった結果、仏教のなかの一部として捉えられ、観音菩薩ができたんです。それが日本にも入ってきて、もとは日本の神様を祀っていたようなところで祀られるようになった。なので神社とお寺って、それぞれ神様と仏様などといわれますが、実はだいぶ曖昧なんですよね。
ー 最近、メディアの影響なのか参拝の方法などをより形式化していますが、自分たちの祖父母の世代でも社寺の境界を曖昧に信仰している人がいますね。
以倉さん:そうですね。あと、八坂神社の「向き」にも注目したいです。神社やお寺は、正面の向きについてもいろいろないわれがあって。まず神社でいうと、古い神社ほど方角はあまり関係なく、自然信仰から、山に背を向けることが多いです。伏見稲荷大社や上賀茂神社、松尾大社も神が宿る山に背を向けて建っています。一方、多くの古代寺院は方角を大事にしており、南向きが多いんです。これは、天子南面(天子は南面する)という考え方からきていて、中国の影響です。それでいうと、八坂神社は南向きなので、やはりお寺的な要素が強いのか、などと勝手に考察したりもしています。
ー なるほど……。さらに、祇園寺には「日本らしい美意識が詰まった庭園や建物」があるとあります。
以倉さん:古いお寺に庭園ってあまりないんですよ。禅寺などにはありますが、あれもあとでくっついてきたようなものが多く、仏教のもともとの考えで見ると、基本庭園はないんですよね。それが、住職の住まいが寺の中で営まれ、住まいとセットになるなかで庭園がつくられるようになったという背景があります。
ちなみに祇園社には昔、多宝塔がありました。AIがつくった画像に塔のようなものが描かれていましたが、これもあながち間違いではないですよね。偶然でしょうが、意外と知られていない歴史です(笑)。
大乗仏教の“ゆるさ”に学ぶ
ー ひとつめからここまで深い話になるとは(笑)。ここからは、気になるトピックごとに進行します。まずは京都観光の定番、清水寺について。
以倉さん:舞台から滝が流れ落ちる景観って、すごいですね(笑)。そもそも清水寺は観音信仰で、観音様がいる場所というのはお経に詳しく書かれているんです。「岩岩しい谷に、草木が柔らかく茂り清らかな水流があって、その中の硬い崖の上に観音様がいる」というように。なので清水寺にとって、水と崖はもっとも重要な要素。それぞれの要素が、「音羽の滝」と「清水の舞台」になるわけなので、案外、清水寺の本質を捉えているのかもしれませんね。
ー 音羽の滝がこのくらい迫力ある滝だったら、ものすごい人気を……そんなこともないか。
以倉さん:5の「瞑想道場」というのもすごいですね。きっと滝から連想しているんでしょう。清水寺自体、多様な信仰が混ざったお寺なのですが、禅宗はなかったように思います。
信仰や宗派ってひとつに決まっており、その教えのもとでお寺ができているようなイメージがありますが、清水寺もたとえば、明治までは法相宗と真言宗を兼学していました。お寺ってわりとそのあたりが寛容な側面もあるので、宗派が混ざっていたりするんです。
ー そうなんですか。日本の仏教に見られる、そのようなある種のおおらかさについて、どのように捉えていますか。
以倉さん:もともと、大乗仏教というのがそういうものなんです。「偉大なる乗り物」という意味を持つように、いろいろな教えを乗せていくことを認めるような。でも、そうやって信仰が広がった部分がとても大きいですからね。
ー 観光がその境目を分けてきたという側面もあるような気がしました。たとえば、「神社は、二礼二拍手一礼」のような説明が観光コンテンツとして広められてきたわけで。
以倉さん:啓蒙的な観点なのか、あたかも明確な正解があるように観光体験をつくってきた側面があると思います。その結果、神社とお寺の違いは何か、などひとつの正解を求めるようになったのかもしれないです。
ー 大乗仏教のある種のゆるさというか、広く認めようとするような考えは重要な価値観に思います。ある意味では、ごちゃ混ぜになったAIの京都像にその「ゆるさ」を教えてもらったような気もします。
以倉さん:お寺って今見ると、一括りで古い建物という感じですが、京都はいろいろな宗派の聖地が混在しているので、エルサレム的なおもしろさが本来あるんです。
ー その解像度はかなり下がっていますよね。どうしても神社仏閣でワンパッケージというか。
以倉さん:たとえば、禅宗は庭園が発達したので観光に人気とか、密教はそのインパクトのある仏像から最近若い女性の参拝が多いとか、いろいろな違いがあるので意識してみるとおもしろいですよ。
日蓮宗のお寺は駐車場が多いとかね。もともと商売人と相性の良い宗派で信仰する人は多く、お寺自体はもちろん素敵なんですけど、たとえば庭園や仏像のような現代の観光にマッチする要素が比較的少ないんです。街中に立地するということもあり、今は駐車場経営もされているのかなどと思ったりしています。
ー その分、穴場スポットになりそうですね。話は戻りますが、清水寺のあまり知られていない見所について、一番上に「狛犬の顔の違い」とあります。
以倉さん:これはむしろ逆ですね。多くの狛犬は、「阿吽(あうん)」といわれるように、口を開いた「阿形(あぎょう)」と口を閉じた「吽形(うんぎょう)」で一対なのですが、清水寺はどちらも「阿形」で、口を開けているのが特徴なんです。
ー どういうことでしょうか。
以倉さん:ざっくりいうと、中国由来なんです。清水寺の狛犬は、東大寺南大門の狛犬をモデルにつくられました。その南大門の狛犬は、中国の王朝である宗の石工がつくったもの。そもそも狛犬のルーツって、メソポタミアやエジプトの守護獣、つまりライオンなんです。百獣の王であるライオンが王様を守護するというような考え方がインドへ渡るなかで、仏法を守護する架空の聖獣・獅子となり、お釈迦様が説法する姿になぞらえて口を開くようになりました。その流れから中国にルーツを持つ獅子は基本、口が開いているというわけです。
ー おもしろいですね。日本ではなぜ阿吽に?
以倉さん:日本人が左右非対称を好んだのは大きいでしょうね。もともとはシンメトリーで対になっていた獅子から、日本人が好きな非対称を追求した結果、片方が角を生やし口を閉じ、「狛犬」となった。参道によくいる狛犬、一応正式には、阿形の獅子と吽形の狛犬をセットで、狛犬と呼ぶんです。なので清水寺の場合は、獅子と獅子がセットで狛犬。ややこしいですね(笑)。
ー 知ったうえで見ると、楽しみが増しそうです。清水寺について、最後は「ChatGPT」が清水寺の境内に架かると説明する「二曲橋」のビジュアルと、そのグッズです。
以倉さん:すごいですよね、こんな橋どこに架かるスペースがあったかなって(笑)。
ー そもそも境内の規模を疑いますよね(笑)。清水寺に橋があったなんていう歴史は?
以倉さん:あまり知られていませんが、今も本堂前に「轟橋」という橋があるんですよ。ただ、川がないのに橋が架かるというちょっと不思議な場所で。轟川という川自体は、多くが暗渠になっているものの現在も存在しています。ただ、清水寺より少し北を流れているので、この場所に橋があるのは象徴的な意味なのかと思います。
鴨丼に鴨せいろ。AIが勧める京都グルメ
ー 続いて、観光には欠かせないグルメ情報について、こんなものが出てきました。
以倉さん:すごいインパクトですね(笑)。おそらく鴨川からイメージしているのでしょうが……。
ー 旅行って食の比重が大きく、名物グルメを軸に計画を立てることもあります。旅の歴史で見ると、昔から食を目的とするようなことはあったのでしょうか。
以倉さん:江戸時代の話でいうと、一応建前は参詣なので、大っぴらには謳いにくいでしょうね。とはいえ、実際はすごく楽しみにしていたのかもしれません。たとえば南禅寺門前の湯豆腐や八坂神社境内にある二軒茶屋の田楽など、京都に来たらあれを食べておかないと、みたいな門前名物はありましたから。
ー 食って味覚と嗅覚によるところが大きいので、AIが苦手とする領域ですね。
以倉さん:たとえば、食べログのような点数評価をつけるサービスから高得点の店のみを抽出するとかであればできそうですが、点数以外での評価となるとどうするんでしょうね。
京都のシンボル 鴨川にまつわる論争
ー 続いて、京都のシンボルのひとつ、鴨川について聞いてみました。「京都市内を流れる川で、市内の中心を東西に貫いています」。南北ではなく(笑)。
以倉さん:いいとこつきますね!というのも「鴨川付け替え説」というものがあります。現在の鴨川は、まっすぐ南下するのではなく、いったん東へ迂回して高野川と出町付近で合流してY字形になっていますよね。しかし、北東から南西に向かって標高が低い京都盆地の地形を考えると、そのような流れは不自然で人為的に付け替えたのではないかという説が唱えられたんです。説自体は、地下鉄烏丸線をつくる際、地下山脈が出てきて、その岩盤を避けるために東へ迂回したということで一旦否定されました。でも、そもそも地下の岩盤が地上を流れる川に関係あるのかなど反論もあり、議論紛紛の様相です。
ー おもしろい話ですね。「鴨川の周辺で花火大会が開催されることもあり」とあります。
以倉さん:打ち上げ花火は、禁止されています。これには大きな理由があって、戦後、鴨川河川敷で花火大会があったんですが、花火の火が京都御所の方まで飛んでしまい、小御所という歴史ある建物が焼けてしまいました。それで花火が禁止されたそうです。京都御所の小御所は、現在復元されたものが建っています。
ー それは絶対にやってはいけないやつですね。
鴨川を舞台にした文学作品については、夏目漱石による『鴨川の夜』が有名であると。これもAIに表紙をデザインしてもらいました。哲学者の主人公が鴨川を歩きながら自分自身の葛藤や女性との出会いを描いているということなのですが。
以倉さん:夏目漱石が祇園の女性に、というような話はありますけどね。漱石が意気投合した祇園の女将を北野の観梅に誘った際、「へえ、おおきに」と言われて、約束ができたものだと思っていたら当日現れなかったと。京女の「おおきに」は、「No Thankyou」だったという話です。
ー その話がモデルだったとするなら、なかなか読みごたえのありそうな作品ですね。
「ふすま祭り」から考える日本家屋の特性
ー続いて、マニアックな伝統行事について。
以倉さん:どれもインパクトありますが(笑)。「ふすま祭り」って、おそらく「屏風祭」と間違えているんでしょう。
ー 屏風祭は、祇園祭の時期に山鉾町の旧家や老舗が所蔵する調度品などを飾る行事ですが、祇園祭自体の別名でもありますね。「ふすま祭り」をビジュアル化するとこうなりました。
以倉さん:こんな行列に出くわしたら……言葉を失いますね。しかも先斗町を経由してって、そんな狭いところを、こんなの担いで歩いたらあかんで(笑)。
ー 事故が起きますよね……。「ふすま祭り」は屏風祭を誤解していそうですが、そもそも屏風と襖の違いってどのような部分にあるのでしょうか。
以倉さん:襖の方が新しいです。昔の寝殿造は、大きなワンルームですからね。そこに屏風など臨時的な建具を置いて間仕切りをつくり、それぞれの空間に用途を持たせていたんです。
そんななか、やはり引き戸の発明が大きい。あれってすごく精度が求められるんですよ。きっちり並行でなくてはならないうえ、建て付けが悪ければ機能しない。大工道具の発展もあったのでしょうが、日本のようにこれだけ引き戸を多用する国は、世界的にもめずらしいです。引き戸の登場によって、襖や障子ができ、今のような日本建築における機能別の「部屋」が生まれました。
ー 屏風と襖の違いなんて、改めて考えもしませんでした。「ふすま祭り」を見せてくれた、AIに感謝したい気持ちです。
以倉さん:今また、逆に大きなワンルームが好まれるようになってきてるのはおもしろいですよね。接客も勉強も、多目的にリビングを使ったりするのも、寝殿造回帰に見えなくもない(笑)。加えて、和室の減少など家の造りそのものが変化したため、あまり襖を見ることは少なくなりました。
京都の文化にAI苦戦!? 言葉の背景にある文脈を読む
ー 続いて、京ことばについて。
以倉さん:意地悪な人のことを「いじわるさん」ってなんか言いそうですけどね(笑)。京都人が、なんでも「さん」をつけることはわかっているんですね。総じて、京ことばは難しいという印象は持っているのでしょう。「おはようございますという挨拶をする際に、天気がいいですねと言う」、ハイコンテクストな京ことばや京都人の機微を頑張って読み取ろうという意思は感じられますよね(笑)。
ー 微妙な表現がAIには不向きですね。
最後に、京都の街で見られる「いけず石」についても聞いてみました。
以倉さん:これはおもしろいですね。「その名の通り、『行けず石』とも呼ばれ、通行人が転ばないように注意を促すためのもの」とありますが、このビジュアルは、どう見ても転がせようとしてますよね(笑)。
ー なかには「明日から頑張ろう」といった励ましの言葉が書かれているものもある。
以倉さん:「明日から頑張ろう」って書いていたらもうひとつ、いけずですね。どう読み解いたらいいのっていう(笑)。いや〜強烈です。
ー AIからすると、石に文字を書かないとメッセージを伝えられないと思ったのでしょう。石を置くだけで意味を持つということが認識されなかったのかもしれません。ここから、京都人の美意識の高さが読み解けるようにも思います。
AIが生み出す、予測不能な未知の観光
ー AIによる京都の観光案内、いかがでしたか。
以倉さん:自由な発想でおもしろかったです(笑)。
ー 将来、AIに仕事が奪われるのではないかという脅威もニュースになっています。
以倉さん:とはいえ、得意な領域とそうではない領域が存在していますよね。たとえば、今日話した内容の要約とかは得意そうです。
ー すでにある情報を組み合わせているようなところがありますもんね。
まいまい京都さんとかは、まさにそうかと思いますが、特に観光については、情報そのものだけではあまり意味がなく、その情報をおもしろがる人の目線が加わることで、おもしろく感じるような気もしていて。客観的な事実のみでは、あまり価値を持たないようにも感じました。
以倉さん:たしかにそうかもしれないですね。
加えて今回の案内で言うと、いろいろ間違っているとはいえ、こうして笑いながら見れるのは、いわゆる教科書的な、よく目にする情報ではないからだと思うんですよね。これが本当に、よくある定番情報のようなものだけだったらおもしろくない。そういった未知の情報であるという点では、可能性があるのかもしれないです。とはいえ、未知であればデタラメを言ってもいいというわけではないでしょうが(笑)。
ー そもそも観光には、未知の知識に出会っていく楽しみがあると思いますし、改めて観光の楽しみを広げるヒントにもなりそうです。
以倉さん:そうですね。AIについて脅威かという話で言うと、個人的にはまだそこまでは思いませんが、特性を知って、どうやったら上手く使っていけるかを模索していきたいですよね。
ー 現時点でAIと京都観光旅行は、まだできないという感じですかね。
以倉さん:そうですね……。まぁでもこうしてツッコミながら行くのはおもしろいかもしれないです。そもそも、こんなに自信を持ってもっともらしく言えないですからね。日本人には必要な部分かもしれない(笑)。
ー 思わぬところで学びが……(笑)。今日はありがとうございました!
おまけ
今回のAIツアーコンダクターをビジュアル化し、内容の一部を喋ってもらった映像がこちら。
※今回使用したのは、アメリカのOpen AI社が開発した、オリジナルのテキストを生成することができる人工知能ツール「ChatGPT3」「ChatGPT4」。加えて、同社開発の画像生成ツール「DALL·E 2 」、イスラエルのスタートアップ企業D-IDが開発した動画生成AIサービス「D-ID」。「ChatGPT」が生成した気になるキーワードやその内容を「DALL·E 2 」、「D-ID」に入力し、画像・動画生成を行った。
企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
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