演劇、オペラ、ミュージカル、歌舞伎や能・狂言、落語、人形劇、サーカス。「舞台芸術」と呼ばれるこれらのジャンル、それぞれなんとなくのイメージは浮かんでも、絵を観たり音楽を聴いたりするのとは違って、日常的な接点が少なく、どこかハードルを感じている人が多いのでは。
そんな壁を取り払うべく、京都で活動するパフォーミンググループがいるらしい。
彼らの名は「ソノノチ」。メンバーのひとりである、渡邉裕史さん(通称・べってぃーさん)は、舞台芸術の制作者でありながら、美術や音楽を学校で学ぶのと同じように、演劇をもっと身近に感じてほしいと、ワークショップやレクチャーを通じて、舞台芸術を広める活動を行っている。
そんな舞台芸術の伝道師ともいえる渡邉さんに、舞台芸術界隈で噂の活動と、初心者にぴったりな入門の仕方を伝授してもらった。
〈プロフィール〉
渡邉裕史(べってぃー)さん
パフォーミンググループ「ソノノチ」をはじめ、複数の劇団公演で制作やアートマネジメントを担当。そのほか主に演劇を軸にしたワークショップのデザインやファシリテーション、MCなども。現在は「アート」が持つ表現やコミュニケーションの要素を楽しみながら教育に活かすワークショップデザイナーとして、アートと社会や教育現場をつなぎ、いつもとちょっと違う出会いや経験を通じて、「自分らしく、楽しく、心豊かに」成長していくきっかけづくりを行なっている。関係者いわく、まるで「うたのお兄さん」のような、うっかり手を振りたくなっちゃうキャラクター。
劇団の人たち、京都の街にどう生息してる?
これは、愛媛県東温市にある棚田。目をこらすと、あちこちに赤い点々が見えてくる。
「これ、パフォーマーなんですよ」。そう話すのは、パフォーミンググループ「ソノノチ」で制作を担当するべってぃーさん。
「赤い服を着ている人がパフォーマーで、この屋外の風景を舞台美術のようにいかして上演しています。普通の公道なので、パフォーマーの後ろを軽トラが通ったりもします。川の対岸から見ている観客には、何が本当で何が嘘で、日常と非日常の境界がわからない。それらが混ざってとけあうような状態を感じてもらいたいと思いました」
2013年の活動開始以来、日常と演劇の絡み合い方を考え続けてきたソノノチ。この作品のように、本来非日常であるはずの舞台芸術を、田園という日常的な風景のなかで上演したり、はたまた本番(非日常)と企画制作(日常)の間の温度感で、ワークショップや公開稽古などを実施したり。
べってぃーさんいわく、「数え切れないほどの劇団がいる」というほど舞台芸術が盛んな京都で、使える資源や場所をうまく活用しながら、たまになにかの拍子で触れるだけではない、日常にひらかれた舞台芸術のあり方について実験を重ねてきたチームなのだ。
では現在3人で活動するソノノチのメンバーは実際、京都の街で日々どんなふうに舞台芸術を生み出しているのだろう?べってぃーさんに聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「ソノノチは自分たちで劇場を持っているわけではないので、最初の企画はオンラインでやったりしつつ、話が具体的になったら四条烏丸にあるシェアアトリエ・KAIKAに集合して、詳細を詰めていきます。演者や、美術・音響などのメンバーへのオファーを、街中の喫茶店で話してることもありますよ(笑)。公演の2〜3か月前には稽古に入るので、今度は同じ四条烏丸の京都芸術センターとかに通います」