2020.8.31
工事現場にDJ、屋台にミラーボール。関西発“ネオ大工”の仕事が異彩を放っているらしい
噂の広まり
2019年、愛知県で開催された人気フェス「森、道、市場」最後の夜。砂浜の上に、フードや雑貨、ライブハウスなど、各地方のトップクラスともいえる店舗のブースが立ち並ぶ中にひとつ、一際多くの人を集めるブースがあった。少し変わった形状のそれは、福島県の酒蔵「仁井田本家」のブース。酒が入ったバスタブの上にミラーボールが輝き、その光の下に続々と人々が集まる光景は「森、道、市場 」のフィナーレとして強く目に焼き付いている。
京都に戻ってから驚くべき話を聞いた。仁井田本家のブースを手がけた人物が、なんと関西で活動しているという。その人の名は、野崎将太さん。今、関西の若手建築シーンを牽引するクリエイターの一人だ。京都でも彼のチームによって作られた空間が次々と誕生しており、その仕事ぶりがジワジワと話題を呼んでいるとのこと。インタビューを通じて彼の仕事に迫るとともに、京都の「いけてる空間」ガイドを依頼したところ……飛び出してきたのは「建築現場」というワードから想像される光景とはまったく違う現場の様子、そして、マニアックすぎる(?)京都の空間の鑑賞ポイントだった。
この記事の内容
1.街と共犯関係を結ぶ、“ネオ大工”の建築スタイル
2.野崎さん的・京都内装ガイド①
「日本一うまい」⁈ 四条烏丸近くのブリトー屋「QUÉ PASA(ケパサ)」
3.野崎さん的・京都内装ガイド②
リニューアルオープンした烏丸御池の注目スポット「新風館」
4.野崎さん的・京都内装ガイド③
府内外から注目を集めるカルチャーの発信地 四条烏丸近くに佇む「VOU/棒」
5.野崎さん的・京都内装ガイド〈番外編〉
「三文オペラ」の世界観を再現 「吉田寮大演劇屋台村」
6.建築を開き、街をおもしろくする。野崎さんが作る、京都のこれから
野崎将太さん
大阪、神戸、京都を主な拠点に、店舗・住宅の内装工事等を手がける。建築集団「々(ノマ)」を主宰。文化住宅を舞台にパフォーマンスを行う「前田文化」のメンバー。
野崎さんInstagram:@shotanoza
「々」Instagram:@nomaarchitecture
街と共犯関係を結ぶ、“ネオ大工”の建築スタイル
野崎さんを肩書きで語ることは難しい。既存の枠組みに当てはめるのであれば「大工」と呼ぶのかもしれないが、野崎さん自身、自らを「大工」と捉える感覚は薄い。おもしろいのは、お客さんである施主との関係性。話を聞いていると、間には共犯者ともいえる関係性が結ばれていることがわかる。
「内装や建築物によって何を実現したいのかっていうのを一緒に考えながら作っていく。お客さんによっては、何をしたいかもわかりません、っていうところからスタートすることもあります。この街を盛り上げていきたいから、とりあえず、しょうきっちゃん来てくれない?とか」
「共犯関係」は街との間にも及ぶ。野崎さんのチームが関わる現場は、その「開かれっぷり」が大きな特徴のひとつ。建築現場には付き物の養生シートはなし。すべては街に公開した状態で行われる。
「僕たちの現場は誰でも遊びにきていいし、作業に参加したかったらしてもらっていいんです。終わったあとには、街の人たちとビールを飲みたい。どうやって作っているのか、隠す必要はないと思っています。むしろ職人の仕事はどんどん見せていきたい」
現場を街に開く姿勢の背後には、野崎さんの建築に対する考え方がある。
「僕がずっと思っているのは、作り手こそ街のことを知っておくべきだということです。周りにどんな店があって、どんな美味しいもんが食べれて……とか。街を体感しながら作業を進めていく。だから現場中のお昼ご飯も、大工のみんなで近所のお店に食べに行ったりっていうのをよくやります」
よい建築、よい内装は、街や人の文脈から切り離されては存在し得ないということか。「過程を開く」という姿勢は、作業をするメンバーの様子が公開されている野崎さんのSNSからも感じられる。
「今こういうメンバーでやってるよって公開していると、友達やお客さんである施主が『俺もペンキ塗ろうかな』って来てくれたり、拡散された投稿を見た人から『京都にいるならこっちの店も相談があんねんけど』っていう相談とか、おもしろいハプニングがたくさん起きるんです。近くに住んでる子が現場に来て、『私うどん打つのが得意やから、うどん打つわ』みたいな。現場を見せてることによって、どんどん人が入ってくる」
出入り自由な建築現場。にわかには信じがたい話だが、公開されている写真を見ると不思議と納得がいく。見た人に「自分も加わりたい」と思わせる雰囲気に満ちているのだ。実際、現場の空気にはこだわっていると野崎さんは語る。そのひとつが、現場に流す音楽だ。
「そんときにいるメンバーで、一番音楽好きなやつとか、『今この曲かけたい』って強く思ってるやつが流すんですよ。現場ごとにDJがいるんです(笑)。現場では気持ちいい曲をかける。そうするとみんな現場を好きになるし、自然と人が集まってくるんです」
確固たるこだわりを持ちつつも、野崎さんは自身のスタイルを「建築業界の隅っこ」と形容する。
「日本の建築って、囲いを建てて、いろんな業者さん、職人さんが集まって分業して、できるだけ早く仕上げるのがメジャーなやり方だと思うんです。ただ自分たちならどうやっていいものを作るか、どうしたら街を知ることができるかって考えたら、囲いをすると人が集まらないし、いい音楽がかかってるところには人が集まってくるしというところに行き着いただけ。これが主流になるとはあまり考えていないです。僕らのやってることは、建築業界の本当に隅っこなんですよ」
野崎さん的・京都内装ガイド①
「日本一うまい」⁈ 四条烏丸近くのブリトー屋「QUÉ PASA(ケパサ)」
実際に京都で手がけた空間や、注目しているスポットについても教えてもらった。ひとつめは四条烏丸近くに店を構える「QUÉ PASA Downtown(ケパサダウンタウン)」。アメリカで育ったという店主が本場の味を再現したというブリトーは、野崎さんも「日本一」と太鼓判を押す美味さだ。
「ちょっとしょうきっちゃん作ってよって相談を受けて、物件を見に行って。どこを壊すか。どこにカウンターを置くか……。どんなスタイルのお店をやりたいかっていうことを聞きながら、友人の設計士と3人でオープンまでの構想を一緒に話して。最初から関わった場所なので、思い入れは一際あります」
店主との作戦会議の末に出来上がった空間は、肩肘張らない「ジャンキーさ」が魅力。
「ブリトーの美味さってのは、ファストフードとしての、ジャンクな味っていうところにあるんだっていうのがコンセプトですね。自転車に乗りながら食べるくらいがちょうどいい、くらいの。そういう話から出来上がった内装です」
じっくりと腰を据えて楽しむことはあまり想定されていないため、野暮な質問かも……と思いつつ、内装の鑑賞ポイントを聞いてみた。すると、なんとも「細かすぎる」回答が。
「奥にあるカウンターの後ろの壁が、ツルッツルなんですよ。僕のイチオシです。」
まさか、壁の手触りがポイントとは。しかし詳しく聞けば、その裏には職人へのリスペクトがあるとわかる。
「八田人造石(ハッタジンゾーイシ)さんっていう左官職人の仕事なんです。左官というのは壁を 漆喰や土、モルタルなどで塗ることを指すんですが、彼の場合は左官を追究しすぎた結果、石で壁を磨き始めたっていう……なかなかにハードコアな存在なんですよね。ここの壁も彼が磨いてるんでピッカピカです」
カウンターの奥とあって簡単には触れられないが、野崎さんいわく「トイレに行く途中に、1カ所だけ触れるポイントがある」とのこと。四条烏丸からすぐとアクセスも抜群の「QUÉ PASA(ケパサ)」。ツルツルピカピカの壁と「日本一美味い」というブリトーが気になる方は、ぜひ足を運んでみてほしい。
ケパサ:https://www.facebook.com/quepasa.burrito/
野崎さん的・京都内装ガイド②
リニューアルオープンした烏丸御池の注目スポット「新風館」
続いて野崎さんが挙げたスポットは、京都・烏丸御池の「新風館」。