2021.12.10
万物を手のひらサイズで“所蔵”。3Dプリンタを使った「sacsac」のクッキー型が自由すぎるらしい
噂の広まり
火焔土器や銅鐸、ベートーベンに「フレミングの法則」の手……。この世にクッキーにできないものはないのでは?と思うほど多種多様なクッキー型が並ぶ「sacsac」のアトリエ。
「知る・つくる」をテーマにさまざまな活動を行うものづくりのアトリエ・sacsac。芸術作品や歴史上の人物、動植物、伝統文化など、世界のあらゆる存在を“所蔵”する「COOKIE CUTTER MUSEUM クッキー型の博物館」を2014年から手がけている。展示・販売されているオリジナルのクッキー型は、3Dプリンタや、デジタルデータをもとに細かな加工を施すレーザー加工機を使って制作されたものだ。“館長”として型づくりをする木山潤平さんは、「ミュージアムとして、世界の万物を所蔵することを目指しています」と話す。
クッキー型は現在、619種(※取材時)にもおよぶ。sacsacのアトリエ兼ミュージアムへ潜入し、気になる制作現場をのぞかせてもらった。
全部で619種!COOKIE CUTTER MUSEUMの歩んだ歴史
今年10月に引越したばかりだという清水五条近くのアトリエを訪ねると、カーテン状に吊り下げられた、クッキー型専用のディスプレイがまず目に飛び込んできた。
そもそも3Dプリンタやレーザーカッターを使って、クッキー型を制作するようになったきっかけはなんだったのだろうか。
「僕は高校、大学と美術系の学校に通っていたため、常にものづくりが身近にありました。今もその延長で続けているのですが、多くの人は大人になると、つくることから遠ざかってしまう。ものづくりを、もっと気軽に楽しんでほしい。そのきっかけづくりができたらと考えていたんです。それが2014年ごろで、ちょうど3Dプリンタやレーザーカッターが個人でも比較的買いやすい価格になっていた時期でした」
当時、3Dプリンタやレーザーカッターはまだ市場に出はじめたばかり。なんとなく存在は知られていたものの、何をつくれるのかははっきりしておらず、サンプル制作など、使用される範囲も今より狭かった。
「そこで、3Dプリンタやレーザーカッターを使って、ものづくりをするための道具をつくれないかと思ったんです。クッキー型にしたのは、料理は日常的に行うものづくりであることと、それぞれの趣味趣向や好みを視覚的に取り入れられて、手軽につくる楽しさを体験できる道具だと思ったから。それにこれまでのクッキー型って、わりと限られたものしかなかった。もう少し自由にデザインしたものがあっても楽しいんじゃないかと思ったのがきっかけです」
こうしてはじまったクッキー型づくり。当初は受注制作がメインで、木山さん自身がモチーフを決めてつくっていたのはサンプル程度の数だった。しかしそれが意外にも好評を呼んだそう。もっといろんな種類が欲しいという声に応えるうち、今のミュージアムという構想につながったという。
小さな“所蔵品”から広がる知の探究心
木山さんが、COOKIE CUTTER MUSEUMをはじめて7年。sacsacのSNSでは、新作やその日にちなんだモチーフが毎日投稿される。
ある日は、鳥獣人物戯画のうさぎ、別の日はモアイ、そしてまたある日は雅楽の登場人物である納曽利 (なそり)など。クッキー型を入り口として、見る人の知識や興味を広げるために制作を続ける木山さん。まずは1000種類を目指して、現在も週に1、2個のスパンで新作を制作している。アーカイブのなかから最近のお気に入りを教えてもらった。
ひとつ目は、ヨーロッパ随一の巨石記念物である「ストーンヘンジ」。サークル状に並んだ巨大な石と土塁からなる古代遺跡で、その歴史には謎が多い。石の配置や構成をリアルに再現するべく、こちらは4つの抜き型で構成される。
ふたつ目は、通称「AK47」といわれる銃。「軍事」カテゴリのひとつとして制作したこちらの型には木山さんのこんな思いが。
「クッキー型のモチーフとしては少し驚かれるかもしれないですが、こういう武器は、僕らが見えていないだけで、世界ではまだかなり使われているものです。この型をたくさん買ってもらいたいとか、これでクッキーを焼いてほしいというより、これを機会にそういう実情を知ってほしい。やがては過去の遺物として、クッキー型でしか見ることのないような存在にしたいという願いを込めています。こうしたネガティブな部分を伝えるのもミュージアムとしての役割なんじゃないかと」
619種にわたるモチーフは、「ミュージアム」にふさわしく、鑑賞者に知らない世界を見せてくれる。
sacsacの工場見学!3Dプリンタでクッキー型ができるまで
アトリエで気にならずにはいられないのが、奥で常時稼働している3Dプリンタやレーザーカッター。ある種のデジタル表現ともいえる型づくりの様子を特別に見学させてもらった。
まずは、モチーフとなるイラストを作成。最終的に3Dデータにしなければいけないことから、手書きのものをスキャンして取り込むか、「Adobe Illustrator」のソフトで描く。
続いて、3D専用のソフト「Rhinoceros(ライノセラス) 3D」を使用し、線画のデータを3Dデータに変換。
さらに変換ソフトを使用し、素材を抽出する3Dプリンタのヘッドの軌道を指示するデータを作成。
完成したデータを3Dプリンタに取り込んだら、出力を開始。
出力後は、余分な「バリ」を手作業で取り除いて、完成!基本は3Dプリンタのみを使用し、より細かいモチーフの際にレーザーカッターを使用するそう。
ものづくりの“よろずや”として
クッキー型以外にも、レーザーカッターを使ったブローチや線画モチーフのTシャツ、マスキングテープなど、幅広くものづくりを行う木山さん。アトリエには、他にも気になるものがたくさん。
「クッキー型制作をメインに活動していますが、機械を使っていろんなものをつくっています。なので、まわりから何かをつくる時に相談を受けることも多いんです。それならこういう方法がいいんじゃないかとか、あの人が詳しいよとか。ある意味、ものづくりのよろず屋みたいな感じなのかもしれません(笑)」
なんでも「まずはつくってみよう」という気持ちからはじまる木山さんのものづくり。自分の手で何かを生み出した経験から生まれる、ものづくりの衝動を自身の活動で生み出したいという。
「作品自体をつくるのはもちろん、そのきっかけとなる道具をつくることもやっぱりおもしろい。僕がつくるのはあくまで道具なので、それを買った人も制作のプロセスに関わることができる“余白”があるんです。自分の手で生み出す楽しみを今後も伝え続けていきたいですね」
「ものをつくる道具をつくる」、その活動の裏には、自分の手で生み出すことの楽しさを誰よりも知る木山さんであるからこその思いが込められていた。
今回、梅小路ポテルもsacsacへオリジナルクッキー型の制作を依頼。現在制作中で、来年1月上旬ごろから梅小路ポテルのカフェにて、テイクアウトとイートインで販売されるらしい。記事と合わせて要チェック!
<プロフィール>
木山潤平(きやま・じゅんぺい)
「sacsac」の代表であり「COOKIE CUTTER MUSEUM クッキー型の博物館」の館長。3Dプリンタやレーザーカッターなどの機械を使ってあらゆるものづくりを行う。ブラジル音楽を奏でる楽団「AveCovo」のメンバーとしても活動中。
「sacsac」 HP:https://sacsac.jp/
企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
写真提供(敬称略):木山潤平