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京都・三条の路地奥にリアルな「インターネット」があるらしい

京都・三条の路地奥にリアルな「インターネット」があるらしい

大前凛子
大前凛子

噂の広まり

独り言

せっかく旅に出るなら、わかりきっているものを見るより、わからないものと出会いたい。そんな「ちょっとした冒険」を求める方にうってつけの場所が、京都三条の路地奥にある。

今、じわじわと噂になりつつあるその場所の名前は「INTA-NET KYOTO」。

ギャラリーともカフェともショップとも言い切れない新世代のパワースポットは、どこから来て、どこへ向かうのか。路地奥へと潜り、話を聞いてみた。

Googleマップに惑わされるな

最寄は、京都市営地下鉄の三条京阪駅。Googleマップで検索すると、INTA-NET KYOTOまでは、駅から徒歩7分との表示が出た。案内通り、三条通から「新麸屋町通」を北へ、おばあちゃんに「車に気いつけてな〜」と声をかけられつつ、住宅街を進む。指定の曲がり角を右に曲がろうとするが……道がない。

グーグル先生でも案内を間違えるのは、「路地あるある」のひとつ。焦らず区画の反対側へとまわり込み、「新富小路通」沿いを進んでいくと……あった。足元に「いんたねっと このおく」と書かれた小さな看板。

INTA-NET KYOTOのミニ看板
INTA-NET KYOTOがある路地の入り口

少し緊張しながら細い路地を歩いていくと、お地蔵さんの祠越しに、白く光る看板を見つけた。

INTA-NET KYOTOの看板
そう、ここが「INTA-NET KYOTO」だ

「よく、観光客の方から『迷った』とDMが来るんです」と、笑って出迎えてくれたのは鈴木宏明(すずき・ひろあき)さん。2021年にオープンしたINTA-NET KYOTO発起人のひとりだ。

鈴木さんのプロフィール画像
友人である台湾在住の作家がつくってくれた鈴木さんの“顔写真”
INTA-NET KYOTO店内 カフェスペース。奥にメニュー看板と本棚がある
INTA-NET KYOTOの物販スペース
INTA-NET KYOTOは2階建。2024年7月現在、1階はカフェと国内外からのセレクト品が並ぶショップスペース
INTA-NET KYOTOの階段途中に投影されている展示映像
靴を脱ぎ、木の階段を一段一段登った先には、その時々の展示を行うギャラリーがあり、いちばん奥のスペースにはタトゥースタジオが入っている

店舗は築年不詳の長屋物件を改修したもの。当初は水道も通っておらず、柱も折れて傾いていたが、建築家や、左官・鉄・銅など様々な職人、DIYを手伝ってくれる多くの協力者が結集し、店舗としてオープンできる建物へと生まれ変わらせたと言う。

INTA-NET KYOTO店内 カフェスペースのテーブルと窓
テーブル席横の窓は、みんなで壁を壊してつくったもの
INTA-NET KYOTO 2階に上がる途中の丸く繰り抜かれた窓
細部にも見どころがたくさん。左官壁をくり抜いた窓がかわいい

京都も路地奥も「流れ着いた結果」

立地も建築もインテリアもかなりユニークなこの空間。さぞかし、鈴木さんのこだわりが詰まっているに違いない、と思いきや、「いや、僕がこだわったというより、流れで決まっていったんです」との答えが。そもそも、この場所に拠点を構えたのも「流れ着いた」という感覚に近いと語る。

「『どうして京都に?』とか『路地奥に?』とか、よく聞かれるんですが、必ずしも『京都に店を出すぞ!』と目がけて来たわけではないんです」

INTA-NET KYOTOの前は、台湾の台北でスペースを運営していた鈴木さん。イベントや展示をキュレーションし、時には友人や知人が10数人、宿泊するなど、ゆるくオープンに続けていたが、コロナ禍で日本へと帰国することに。東京を含むいくつかの候補地のなか、最後に残ったのが、奈良と京都だった。

「いくつか理由はあるんですが、古いものが残っているかどうかは重要視していました。台湾だと20年やってる喫茶店が『老舗』って言われるくらいなんですが、その感覚からすると、日本に数十年、場合によっては数百年のものがゴロゴロあるのって奇跡レベルですよね。コロナで『横の移動』がしづらくなった分、深掘りする『縦の移動』を楽しむしかない、と思って、潜りがいのある場所を探していました。奈良も最後まで検討していたんですが、まだ自分が行くには早すぎるという感覚があり、じゃあ京都が良いなと」

路地奥の物件は、安い物件を探すなかで、知り合いの紹介により偶然出合えたもの。手探りで改修を重ね、今の状態に。「水道すら、一回通してみないとどれくらい水の勢いが出るのかわからないような状況だったんですが、神頼みで通してみたら、めちゃめちゃ出た。おかげでカフェ営業が出来ています」と笑う。

バージョンアップの起点は「人」

INTA-NET KYOTOのスタンスは「やりながらつくる」そして「一緒につくる」。

「あまり『自分の場所だ!』という意識はなくて、今コミットしているメンバーがモチベーションをもってやれる環境をつくる、やりたいことを自律的に、自由にやってもらうということをしていたら、今の状態になっていたって感じです」

過去のINTA-NET KYOTO。構造部分や単管パイプが目立つ
「バージョン1.0」のINTA-NET KYOTO。はじめは、何もないところにカウンターや単管パイプだけが設置された空間だった(写真:Yuri Sato)
INTA-NET KYOTOカフェスペースの青いカウンター
「ここでサンドイッチを出したい!」と飛び込んできたのが、現在カフェを担当するコハルさん。シンク横の作業スペースや冷蔵庫などの設備は、コハルさん主導のもと整備されたもの
カウンターの穴を観葉植物の幹が通っている
単管パイプを通すために空けたカウンターの穴には現在、観葉植物の幹が伸びている

「僕自身のこだわりや趣味より、店頭に立つ人が愛着をもてることが大切だと思っています」と語る鈴木さん。数少ない“鈴木さんプロデュース”の場所は、カウンターの色を青色にしたことと、2階ギャラリースペースにある鏡張りの空間。「むしろ意見を取り入れてもらったって感覚ですね。こういうふうにしたいな〜ってつぶやいたら、次来た時にそうなっていて、嬉しかったです」と微笑む。

2階のギャラリーの展示企画も同様のスタンスで、鈴木さんがディレクションする時もあれば、他のメンバーによる持ち込み企画が実現されることも。鈴木さんがディレクションを行う場合も、目指すのはあくまでも「作家がいちばんやりたいことを実現できる場所」。コミュニケーションを通じて、一緒に、その人がやりたいことをかたちにしていく。

INTA-NET KYOTO 展示「確率ライダー」
INTA-NET KYOTO 展示「確率ライダー」

訪問時は、台湾の作家・Teom Chenさんの個展「確率ライダー/Probability Riders」が開催されていた。年度内にアフリカの作家の展示も開催予定。ワールドワイドな面子だが、キュレーションを行う鈴木さんは、驚くことに「英語も中国語もできない」のだとか。「Zoomもメールも、翻訳サイトを駆使してやり取りしています。言葉がわかる・わからないは、人を見るうえでそれほど関係ないですね」。

メンバーがインストールされるごとに、バージョンアップを重ね、鈴木さんいわく、今のINTA-NET KYOTOは「バージョン5.0くらい」。もうすぐ物販のバイイングを担当するメンバーが新規加入する予定とのことで、まだまだ変化は続いていく模様。

INTA-NET KYOTOの物販スペース

秘密基地感と風通しの良さが同居する、路地奥の“インターネット”には、人が人を呼び、学生、教授、国内外からの観光客など、老若男女が幅広く集う。今後、どんなお客さんが来てほしいかを尋ねててみると、「『前向きな人』でしょうか。ポジティブというより、何事に対しても、まだ自分の知らないことがあるかもという前提で対峙できる人。知らないものとの出会いを楽しめる人に来てもらえたら」。常連だけの閉じた空間を目指すのではなく、新しいものが入る余白を常に残しておきたいと語る。

INTA-NET KYOTO 入り口横のトイレ 木の扉に手作りの「WC」文字
帰りがけ、隣にトイレがあることに気がついた。このトイレも店舗と合わせて改修したものだが、路地の住民たちがシェアする共同トイレになっているそうだ

京都に拡散するINTA-NET

INTA-NET KYOTOはこの先どこに向かうのか。

「まだ先の話ですが、京都の別の場所で、滞在できる場所もつくりたいと思っているんです」

じつはINTA-NET KYOTOも、当初は家と宿泊施設の間のような場所をつくろうという発想がスタートにあったのだそう。ある意味、原点に近いかたちで第二の“INTA-NET“構築を画策する鈴木さん。

「ただ、普通の予算でやると、どうしても見たことある空間しかできない。『おお!』ってなる仕上がりにするにはある程度、お金はかかってしまうんですが。そこは妥協せずやりたい。単体では非効率に見えることも、街の中に相乗効果を生むスペースを点在させることで結果としてなんとか成り立つ、そんな仕組みにしようっていう考え方で動いています」

INTA-NET KYOTO 外から見える店内

路地奥から始まった「インターネット」はまだまだ拡散予定のようだ。

「いったん、遊びに来られる場所として今の場所をつくったので、これからは宿泊施設とか、さらにはスタジオとかをつくっていきたいな。京都に点在する拠点がつながって、ひとつのINTA-NETとして体験できるような、そんな枠組みを実現したいですね」

INTA-NET KYOTO 入り口に飾られているトラの装飾品

INTA-NET KYOTO

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企画編集(順不同、敬称略):光川貴浩、河井冬穂(合同会社バンクトゥ)

撮影(順不同、敬称略):大前凜子