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A HAMLET サムネイル

焚き火が誘う霧の郷。亀岡で空き家をリノベした“集落再生プロジェクト”が進行中らしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

井戸端会議

亀岡市

ここは京都府亀岡市。京都駅からJR嵯峨野線でおよそ20分ほどの並河という街に今、何やら動きがあるという。

仕掛け人は“京都一ファンキーな不動産屋”として知られる川端寛之さん。
昨年2月から並河にある集落の築5,60年ほどの空き家を順にリノベーションし、およそ3年かけてひとつの集落を再生しようというプロジェクトに取り組んでいる。

川端さん
川端さんは、不動産情報サイト「KAWABATA channel」の運営をはじめとする不動産業のほか、集落やビルなどの不動産活用やリノベーションの企画などを行う

プロジェクト名は「A HAMLET(ア ハムレット)」。「集落」や「村」という意味を持つ。

「A HAMLET」のWebサイトやSNSでは、施工作業やオープンハウスの様子、メンバーが焚き火を囲む姿など、日々現地の様子が温度感を持って発信されており、その活動はじわりじわりと噂になりはじめている。

A HAMLET Webサイト
「A HAMLET」のWebサイト。焚き火が燃える土着的な雰囲気が集落へと誘う

亀岡で今、一体何が起こっているのか。発起人である川端さんに話を聞くべく、我々編集部は並河へと向かった。

生き物としての巣を目指した場所

その集落に到着するやいなや目にしたのは、メンバーや住人が焚き火を囲む姿だった。

焚き火楽園
「楽園」と呼ばれる焚き火スペース。集落の中心として機能し、自然と人が集まってくるそう

昨年2月からはじまった改修プロジェクトは現在、二期工事と三期工事の間にある。13棟中4棟が出来上がり、お針子のアトリエや制作事務所、店舗などがすでに入居している。

建物
一期工事で完成した2棟。お針子のpoko a pokoさんと、ポmagazineでも以前登場いただいた堤大樹さん率いる「Eat, Play, Sleep inc」が入居

プロジェクト開始から約1年。明確な完成図をつくらず現場で手を動かしながら考え、進めてきたという改修工事。徐々に形が見えはじめた集落の様子を見渡しながら川端さんはこう話す。

「どれだけまちのストーリーの中で自然であるかどうか。生き物としての人間の“巣”みたいなことをテーマにしている」

聞けば川端さんが初めてこの地を訪れた時、表の道はコンクリート舗装されていたそうで、あえてはがして土をむき出しにしたという。

効率や使い勝手が重視された結果、まちがどこも同じ顔になっていく。不動産業者として日々物件と向き合うなか、そんな危機感を感じていたという川端さん。

「土のままの地面だと、雨が降ると水たまりができたりするので、『通りやすいように』ってアスファルトやコンクリートを打ってしまうんよね。家の壁は朽ちにくいように、メンテナンスがしやすいようにってサイディング(外壁材の一種)なんかの壁になっていく。でも生き物としてどっちが自然なんやろうっていうのを考えていて」

建物2
世界有数の霧の街として知られる亀岡も住宅開発が進んでいる。コンクリートやアスファルトが増える一方、土があらわになっている地面からは数メートル先も見えなくなるほどの霧が出る日もあるという
屋根
屋根の採光部分。時間帯によって日の入る角度が変わるそうで、光の変化によって時間の流れを感じられる

火を見て、光を感じ、土に触れる。「A HAMLET」の建物やその通りをぐるりと案内してもらうと、本来暮らしに必要な感覚がとても自然に体現されていることがわかる。

通り

軒先

住宅がひしめくメインストリート。軒先に溢れ出る生活感が愛おしい

今からおよそ50年ほど前に建てられたこの一帯はもともと、主にオーナー・山本さん一家の家業である瓦屋さんの従業員寮だったそうだ。平家が建ち並ぶ集落は時代とともに空き家が増え、数年後にはマンションへ建て替える話もあがっていたのだとか。50年前に撮られたこの場所の写真に心打たれたという川端さんは、50年前と未来がかけあわされた集落の姿を描けないかと考えたのだそう。

「別に昔が良かったとかそういうことを言いたいわけじゃなくて。今の時代は特にそうやけど、1個悪いものがあると全部ふたしちゃうのよね。そりゃ建築的には耐震性とかいろんな悪いところもあるやろうけど、たとえばそこにあったカルチャーとか風土とか、おばあちゃんがつくったどうのこうのとかってすごく大事なことで。それも一緒にふたをして、0か100かみたいになってしまっている」

土壁
解体時に出た土を砕いてこして、再利用した土壁

0か100ではない、その融合を目指したアップデート。解体時に出た50年前の土を壁や床に利用したり、剥がした瓦を砕いて地面に埋めたりといった取り組みについても「こういう時代やしとか、サステナブルがどうこうとかそういうのじゃなくて、このまちのストーリーとしていかに自然にやるかみたいなこと」と話す。

土間
一般の方の参加も交えて作業を行った「三和土(たたき)土間」。床に敷き詰めた土を2度に分けて、コテや足で踏み固めた

各方面のプロが挑む、領域外のチャレンジ

このプロジェクトにおいてもうひとつ注目すべきなのは、まさに京都における「噂」な人たちが集結したチーム編成だろう。

クレジット
ポmagazineでも登場いただいた、野崎将太さん率いる建築集団「々(のま)」や堤さん率いる「Eat, Play, Sleep inc」をはじめ、気になる名前がずらり

「工事部隊ができた時に、すごい濃いメンバーやからそのまま出したらみんなが胸焼けするんちゃうかと思って(笑)。外からのフィルターが欲しくて公募した。『バンドやろうぜ!』みたいな感じで。その結果、「Eat, Play, Sleep inc」に広報全般を任せることになった」

web記事
ライターが現場を体験しながら、その時起こったことをリアルな温度感で綴る

すでに実力が知られたメンバーも多いなか、川端さんはある思いを抱いていたという。

「このメンバーでやりたいっていう思いが本当に強かったから、口説くのに必死やった。ただ、彼らに最初に伝えてたのは、ここでは自分のできることだけではなく、やったことないことにも挑戦してほしいということ」

実際、プロジェクトに途中参加したというメンバーからは、「作業中、わからないところは、しょうきちちゃん(野崎さん)に質問していたんです。でも作業が進んでいくと、しょうきちちゃん自身もやったことないことがあったみたいで、『一緒に考えてほしい』と言われていた」という。

安定したクオリティやあらかじめ想定された完成形だけではない、自分が持っている武器以上の挑戦をしたい。一人ひとりのそんな思いが、見たことのない光景や思いもよらないクリエイティブを生み出すのだろう。

集まることの意味を問い直す

近年新興住宅街が増え、若い世代の移住も進む亀岡。駅前にはスタジアムや大型ホームセンターなどが建ち、街の様子が変わりはじめている。

「人って、すでにあるものの価値に気がつきにくい。亀岡の多くの人たちも自分たちのまちを誇りに思っていないからね。近くに新興住宅街ができたりとか、カインズみたいな大きくてよく知っている施設ができると、『街っぽくなってきた』って喜ぶ。僕としては『そうじゃないのに、もうとっくに良いものを持っているはずやのに』って思うんやけど」

ここにも「A HAMLET」=集落に込められた思いが垣間見える。

「マンションとかでもそうやけど、集まっているからこその力をちゃんと発揮しているところって、ほとんどなくて。ただ、並んでいるだけで集まっている意味を持たない。でもこういう集落は、距離感が全然違う。暮らしの中で自然と、コミュニケーションや助け合いが生まれるんです」

川端さん
焚き火を囲む姿に「この雰囲気、集落っていってもずっと前の集落よね、原始時代とか」と笑う川端さん
元からの住人のおばちゃんたちから通りすがりに「ちょんまげ〜久しぶり!コーヒー入れたろうか?」の声が

今回のプロジェクトの対象となる空き家は13棟。一度に工事するのではなく、2棟ずつ全6期に分けて行う。2棟完成して入居して、まちやまちの人と馴染む、また2棟完成して入居して馴染む……という動きを意識しているためだ。

「13棟一気にやると『13棟 対 元から住んでいた人』みたいな構図ができちゃうんですよね。それだとまちが醸成しない」

コーヒー
話し込んでいると、先ほどのおばちゃんたちから、コーヒーとドーナツのうれしい差し入れが

入居希望者との事前面談では、そのまちやそこに住む人と合っているかどうかを判断するため、しっかりとコミュニケーションをとることを大事にしているという川端さん。

「外側のデザインだけ見て『かっこいい』とか『住みたい』とか言われても、ここの価値はそれだけじゃないからなって」

単なる箱に住むのではなく“そのまちや地域に住む”という感覚が、失われつつある集合体の価値であり、住まいの本質なのだろう。

マイノリティの選択肢を増やす

多くの人が効率や便利さを重視し、ハウスメーカーがつくる建売物件が増えていくなかで、川端さんが考える「A HAMLET」の位置づけとは。

「僕らって結局マイノリティなんです。公の機関でもないから、当然すべての人は救えない。『A HAMLET』をいいなって思うような価値観をもっている人たちに対して、ここならそういう人ばっかりやから大丈夫、むしろその価値観が普通やでみたいなことを言ってあげたい。そんなまちをつくれたら少なくともその周辺の価値観の人たちは救えるわけで。そこの受け皿とか選択肢を増やしたいみたいなのはありますね」

社会の大きな流れに乗り切れない価値観に向けて、選択肢を提示する。そんな「A HAMLET」が歩む道を、川端さんはこう描いている。

「一番の理想は集落や施設が自走していくこと。今は僕らが定期的にまちを訪れたり、まちの人らとコミュニケーションをとったりしているけど、誰かがその場所に君臨しちゃうと、場所の価値がその人に紐づきすぎちゃって良くない。まちを持続させていくためには、むしろ僕らがいなくなった時のことを考えて、いちいちこうしなさいって言うんじゃなくて、むしろ走り出した時にこっちに寄りすぎたらあかんでとかそういう軌道修正をしてあげる。そうやってまちの人ら自身の力で醸成していけたらと思います」

「A HAMLET」がはじまって約1年。改修工事やオープンハウスなど、盛りだくさんだった1年を振り返る川端さんだが、実感としてはまだまだはじまったばかりという様子。明確な完成図をつくらないという施工工事同様、集落の目指す先についても「もし、先にゴールを決めちゃったとして、入ってくる人はおもしろいんかな?」と高らかに笑う。

単なる「建物」と「住む人」ではない、集合体としてのあり方が、人間らしい健全な感覚を思い出させてくれる。人と人、人と村の混ざりあいのなかで生まれる反応が、「A HAMLET」をまだ誰も知らない未来へと導いてくれるのだろう。

 

「A HAMLET」
HP:https://a-hamlet.com/
Instagram:https://www.instagram.com/a.hamlet.kameoka/

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)

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